シオンとエセル
エセルは夜中に目が覚めた。
外からわずかな物音が聞こえた。
エセルは慎重に戸を開けた。石畳の路地を、シオンが大きな荷物を担いで歩いているのが見えた。彼は疲労困憊の様子で、時折、痛むのか肩を揉んでいた。
彼は村の生活物資を運び、最も危険で重要な、隣村との交易を担っていた。
エセルは、衝動的に声をかけた。
「シオン!」
シオンは反射的に担いでいた荷物を地面に落とし、警戒してエセルを睨みつけた。
「あんたか…。こんな夜中に何してる」
エセルは、彼の顔に刻まれた疲労と、皮膚の薄い部分に残る赤く腫れた傷に気づいた。
地面に落ちた荷物を拾い上げた。中には、折れてしまった薬草や、わずかな食料が入っていた。
「ごめんなさい、驚かせたわね。その傷…隣村で何かあったの?」
シオンは、エセルの手が傷に触れると、少しだけ顔を背けた。
「関係ない。」
シオンはそう言いながらも、エセルの瞳に宿る偽りのない心配に、完全には突き放せなかった。
「……あいつらは、俺がこのドラゴニアの村の人間だと知っている。だから、荷物を盗もうとしたり、わざと取引に時間をかけたりするんだ。それに、うちの村の評判を落とそうと、変な噂も流している」
シオンは続けた。
「あんたたちも、あまり目立たない方がいい。特にアメティストさんの魔法の力は、外の人間に知られたら、この村ごと狙われる」
エセルは、シオンの行動の根底にある純粋な強さを感じていた。彼は、金のためでも、報われるためでもなく、ただこの村の平和を守るためだけに日々をすごしている。
それは、エセルが過去に見てきた、金や欲望にまみれた男たちとは全く異質なものだった。
エセルは、シオンの献身的な心と静かな強さに、少しの関心を覚えた。
「アメティストさんは美人だし、あんたもそこそこだ。それに人間でありながら魔法が使えるって事は加護持ちってことだろ?山賊に知られたらまずい」
少し照れながら、シオンは語る。
「ありがとう、シオン。」
シオンは、エセルの言葉と優しさに戸惑いながらも、僅かに口元を緩めた。彼は荷物を抱え直し、夜の闇の中へ消えていった。




