人並みの生活
鱗月村での生活が始まって一週間が経った。
エセルは、アメティストの指導のもと、借りた家の裏庭で薬草を煎じたり、乾燥させたりする仕事に慣れ始めていた。
この村の中では、ドラゴニアと人間が穏やかに暮らしていた。エセルは、村人たちの日常に溶け込んでいる魔法を日々観察していた。特に、アメティストの治癒魔法は驚異的だった。
小さな切り傷ならば、手を当てるだけで瞬時に塞がってしまう。
ある日、リルカが母親に手を引かれて治療を受けに来た。リルカは木から落ちて足を捻っており、そのトカゲのような滑らかな皮膚の表面は腫れ上がっていた。
リルカは、アメティストに抱き上げられながら、エセルに話しかけてきた。
「木から落ちちゃったの。今は痛いけど、治ったら一緒にあそべる?」
リルカを治療している間、その隣で水汲みの手伝いで来ていたセシルが、エセルとアメティストを複雑な視線で見つめていた。
アメティストがリルカの足を治し終えると、リルカの母親が感謝の言葉を述べ、シオンも重い水桶を片手で軽々と運びながら帰っていった。
彼の顔には、よそ者への警戒心と使命感のようなものが混じっていた。
エセルは、シオンが去った後、アメティストに尋ねた。
「姉さん、あのシオンという青年は、どうしてあんなに警戒しているの?彼は人間なのに」
アメティストは、薬草の瓶を整頓しながら答えた。
「彼の母親はドラゴニアの血が薄く、シオン自身は竜の加護を継がず、魔法が使えないの、だから彼は時々、隣村へ交易に行くけれど、そこでひどい差別を受けているらしいわ。それでも彼は、この村を心から愛していて、外界の脅威から守りたいという気持ちがとても強い。あの警戒心は、村を愛しているからよ」
そして、アメティストは深刻な顔で続けた。
「それだけじゃない。この村は今、薬草の採取地を巡って、外の山賊と揉めているの。彼らは、村の魔法の力を恐れてはいるけど、同時に支配しようと隙を窺っている」
その話を聞いて、エセルの脳裏に、ノクスの顔が浮かんだ。
エセルは、思わず心の声を漏らした。
「ノクスは、竜の王なのに……どうしてこの村の平和を知りながら、外からの脅威を排除しないの?彼には、この小さな山賊くらい、瞬時に追い払う力があるでしょう?」
アメティストは、静かにエセルの顔を見つめた。
「ノクス様が目覚めたの最近のこと、長く王の座が不在となり、人間は竜の事も伝説と忘れ、ドラゴニアの事も道具とみるようになったの」
アメティストはそれ以上、口を閉ざした。




