相互理解
昼食を終え、再び旅路を歩き始めた。
ガルドは前方で周囲を警戒し、エセルとアメティストは無言で並んで歩いていた。
エセルは、ガルドの言葉を胸に、意を決した。
「アメティスト」
エセルが声をかけると、アメティストはフードの下から静かに視線を向けた。
「昨夜は……本当にごめんなさい。あなたの顔に泥を塗って、ノクスの心まで裏切ったわ。自分の不安ばかりに囚われて、周りが見えていなかった」
エセルの声には、真摯な後悔が滲んでいた。
アメティストは立ち止まり、ローブのフードを少し持ち上げた。
「エセル、あなたは謝る必要はありません。王は、あなたがこのような人間らしい衝動を持つことを、理解している。そうでなければ、あなたを番には選ばなかったでしょう」
アメティストは、エセルの手を取り、その冷たさに気づいた。
「ただ、私が悲しかったのは、あなたが私を信用しなかったことです。私は、あなたの教育係であり、王に命じられた守り手です。そして、親友でありたい。あなたが不安を感じたなら、なぜ私に相談してくれなかったのですか?」
アメティストの、その言葉には深い愛情が感じられた。
「ノクス様の仰る通り、私たち竜は、人間の心の機微に疎いかもしれない。だけど、私にはガルドという人間の番がいる。私は、あなたの過去も、孤独も、心の繋がりの不安も、理解しようと努めているの。」
エセルは、アメティストの言葉に涙腺が緩むのを感じた。
「ごめんなさい、アメティスト……」
「もういいわ、エセル。これで、あなたの心の靄は晴れたでしょう?あなたは、娼婦という過去から、ノクス様の番という未来へ一歩進まなければならない。そして、あなた自身が望んだ、人間らしい営みを見つけなければならない」
アメティストは、そっとエセルの手を握りしめ、二人の間にあった氷のようなわだかまりが、静かに解けていった。
参:改めての目的地
二人のやり取りを見ていたガルドが、明るい声で割り込んできた。
「おっ、いい雰囲気になったな!よし、これで俺も安心して道を進めるぜ、あんた!」
「お調子者ね、ガルドは」エセルは、少しだけ笑って見せた。
アメティストは、再びフードを被り直した。
「さあ、エセル。私たちは進まなければならないわ。あなたは、ノクス様から時間を与えられたのよ。村では、竜人と人間がどう暮らし、何を求めているかをよく見るの。それが、あなたが王の番として、そして一人の人間として、自分の道を見つけるための場所だもの」
エセルは深く頷いた。ノクスの「愛」が何を意味するのか、そして彼女の「人間らしい営み」が何なのか。その答えは、この村での生活の中に見つけなければならない。
三人は、再び東の国境を目指し、森の奥深くへと足を進めた。




