理解できない事
神殿の扉前に立つエセルに、ヴァルカンとアイゼンは、驚きつつも、恭しく頭を下げた。
「エセル様、このような夜更けに、いかがなさいましたか?」
ヴァルカンが尋ねた。
エセルは単刀直入に尋ねた。
「あなたたち、ノクスはどこにいるの?この先にいるの?」
アイゼンは即座に答えた。
「はい。ノクス様は今、聖域の最奥にて力の調整をなされております。我々は、村の探索状況を報告するために参上いたしました」
「じゃあ、どうしてノクスは私の部屋に来ないのよ?」
エセルは次の疑問をぶつけた。
ヴァルカンが慎重に言葉を選んだ。
「それは……我々臣下が口を挟める領域ではございません。ノクス様には、ノクス様のご思慮がおありかと」
エセルは鼻を鳴らした。
「思慮?アメティストから、あんたたち竜は番がいないと不安定だって聞いたわよ。千年ぶりに番を得たのになんで放っておくの?番を求めるのは、あんたたちの本能なんじゃないの?」
エセルの鋭い問いに、アイゼンは静かに向き直った。
「エセル様の仰る通りです。しかし、ノクス様ご自身の真意は、直接お聞きになるのが一番かと存じます。我々が、外へ通じる場所までお連れいたしましょう」
ヴァルカンとアイゼンに案内され、エセルは、聖域の結界の最外縁、夜空がわずかに見上げて見える場所へとたどり着いた。
そこに、ノクスが立っていた。彼は、衣を纏ったまま、漆黒の髪を夜風に揺らし、その赤い瞳を、星一つ見えない分厚い夜空に向けていた。
二人の竜は、エセルをノクスの数歩手前で止め、静かにその場を離れた。
エセルは、一歩ずつノクスに近づいた。
「ノクス」
彼の名を呼ぶと、ノクスはゆっくりと振り返った。
「エセル。なぜここに来た」
彼の声は低く、感情を読み取れない。
エセルは、彼との距離を詰め、見上げた。
「聞きたいことがあるの」
「言ってみろ」
「どうして、部屋に来ないの?」
エセルは単刀直入に尋ねた。
「泉であんなことしておいて、なんで私を放っておくのよ。番を求めるのは、あんたたちの本能だって聞いたわ。王の支配欲はどうしたの?」
ノクスは、エセルの言葉に対し、静かに夜空を見上げたまま、答えた。
「エセル。番を求めるのは、確かに我ら竜の本能だ。だが、我は早急に過ぎたと感じている」
ノクスは、夜空からエセルに視線を戻した。
「ヴァルカン、アイゼン、そしてアメティスト。番を持った三体の意見を聞いた。人間は、我ら竜とは時間の流れも、愛の育み方も違う、と」
彼の瞳が、夜空の闇よりも深い、複雑な光を帯びた。
「我は、千年待った。だからこそ、たった一夜の衝動で、お前を力の道具やただの妻にはしたくない。お前が自ら、愛する者として、我の孤独を終わらせるために来ることを望んでいる」
ノクスは、エセルの頬にそっと手を触れた。その指先は、ひどく冷たかった。




