理解するということ
妃教育はすぐに始まった。
教育の場である書庫で、アメティストはエセルに竜の生態と習性を説明した。
「ノクス様が黒竜であり、王であることをご存知ですね。黒はすべての色を内包し、支配する王の色です。そして、すべての竜の中で、最も深い孤独を背負う運命を意味します」
アメティストは、その瞳に静かな同情を宿して続けた。
「私たち竜の寿命は永く、番に出会えなければ、その永劫とも言える生を一人で過ごすことになります。ノクス様は、生まれてから千年もの間、運命の番に出会うことができませんでした」
エセルは息を呑んだ。
「千年もの間……ずっと一人で?」
「はい。その途方もない孤独と、番が見つからないという絶望のあまり、ノクス様は意識的に眠りにつかれたのです。彼は、貴女様が現れるまで、未完の運命の中で、ただ時が過ぎるのを待っていました」
ノクスの自分への執着が、単なる支配欲ではなく、千年の愛への飢餓から来ていることを知り、エセルの心臓は強く脈打った。
アメティストは、教育を続けた。
「私たち竜は、本能的に強い支配欲を持ちます。特にノクス様は王ですから、その支配欲は絶対です
」
エセルは、それを聞いても表情を変えなかった。
「分かってるわ」
次に、アメティストは番の役割について、さらに深く踏み込んだ。
「ノクス様は、番を得た者のみが人の姿を完全に維持できると説明しました。なぜなら、人間の番は私たち竜にとって、力の安定装置であり、魂の器だからです」
アメティストは、ノクスが番を持たずに千年を過ごしたことが、いかに危険な状態であったかを説明した。
「ノクス様は、貴女様という**楔**を得て、初めてその力を完全に制御し、王として覚醒されました。貴女様は、ノクス様を繋ぎ止め、王の力を制御し、人間社会との繋がりを保つ、唯一無二の存在なのです」
エセルは、ノクスの自分に対する執着が、種の存続と、千年の孤独を癒すという重い使命に根差していることを理解した。
「分かったわ。私はただ守られるだけのお飾りじゃない。ノクスを繋ぎ止めるための存在ってことね」
アメティストは、エセルの芯の強さに感心したように微笑んだ。
「その通りです、エセル様。この知識は、貴女様がこれから外の竜人の村で生活する上で、必ず役に立つでしょう」




