新たな竜
ノクスとの「儀式」から三日。エセルは、ノクスから番としての教育を受けていた。
「竜は、人間としか番わない。そして、番を得た竜のみが、この通り人の姿を完全に維持できるのだ。」
ノクスは、自身の姿を示しながら教え込んだ。
その日、ノクスがエセルに古代語の文字を教えている最中に、洞窟全体が微かに震えた。
臣下である他の竜たちが集結した。
エセルは、彼らの外見を観察し、すぐにその違いに気づいた。三体の竜は完璧な人間の体躯を持つが、残る六体の竜(青、緑、銅、銀、白、紺)は、体躯が人より大きく、鱗が残り、野性的な面影を持つ。彼らは人型を完全に維持できていないため、あたかもドラゴニアのように見えた。
ノクスは断言した。
「番を持たぬ竜は、力の均衡を保てず、その姿も中途半端になる。彼らは、番を持たぬためにその姿がドラゴニアに似てしまっている。これは、彼らの孤独の証とも言える。」
ノクスは静かに命令した。
「番を得た三体のみ、前へ出よ」
赤竜、金竜、そして紫竜――が前に進み出た。
彼らこそ、ノクスと同じく、完璧な人間の姿に角が生えている、番持ちの竜たちだった。
ノクスは、エセルの肩を抱き寄せ、彼らに告げた。
「この者こそ、千年の時を経て、我が見つけた運命の番、エセルだ。彼女は、我ら竜族の未来を担う存在となる」
ノクスに促され、三体の番持ちの竜がエセルに挨拶をした。
「初めまして、エセル様。私はヴァルカン。火と力の竜を司ります。王の定めた使命に従い、貴女様がこの洞窟で安寧を得られるよう尽力いたします」
「エセル様。私はアイゼン。知識と光の竜を司ります。貴女様が人として望まれる学や教養に関しては、私が力になれるでしょう」
「エセル様、お会いできて光栄です。私はアメティスト。運命と癒やしの竜を司ります。ノクス様を含めた四体の中で、唯一の女性でございます」
アメティストの紫色の瞳は、エセルの瞳と同じ色を帯びていた。
「力ある竜は、もはや我ら十体しか残っていない。そして、我らの血を引く竜人、ドラゴニアの国は遠く追いやられ、人間の国に激しく迫害されている。」
ノクスは、エセルの肩に置いた手に力を込めた。
「エセルは、この聖域での暮らしや、王の番としての振る舞いを知らぬ。アメティスト」
ノクスは、紫竜アメティストを見据えた。
「お前は、この四体の中で唯一の女性だ。今日より、お前はエセルの侍女となれ」
ノクスは彼女を見据え、命令を続けた。
「彼女に、竜の番としての教養、振る舞い、そして、この洞窟で生きるための知識のすべてを教えよ。そして、監視役として、彼女の行動のすべてを我に報告せよ」
アメティストは優雅に膝をつき、命令を承諾した。
「御意のままに、ノクス様」
ノクスは、続けてヴァルカンとアイゼンに最後の指示を出した。
「ヴァルカン、アイゼン。お前たちは、三日以内に竜人の多く住まう地域の中から、エセルの望む小さな村を見つけ出せ。その間、エセルはアメティストと共に過ごし、旅に出るための準備をするといい
」
エセルは、ノクスの隣で、同じ女性であるアメティストの存在に、わずかな安堵を覚えた。




