1:娼婦エセル
少しの性的表現、残酷表現含まれます。
月が揺れる
ゆらゆらと格子に囚われた月が揺れている。
背中が擦れて痛い。体の上には醜い蛙が覆い被さり必死にエセルを揺すっていた。
「なぁ、エセル。俺と逃げようぜ?王都まで出ちまえば何とかなる。なぁ、どうだぁ?」
荒い息遣いと、部屋に染み付いたすえた臭いが揺さぶられるたびに濃くなっていく。
生暖かい舌がエセルの身体を這い回る。
背中も痛い、足も痛い、お腹も痛い。
早く終わってとエセルは揺れる月を見ていた。
「睦言にしては安いわね。私、逃げるにしても金無しとは嫌だよ。」
「ずっと通ってやってるだろう。いいだろ?
何とかなるって・・・・・」
男はエセルに抱きつくと、また身体をしゃぶり始めた。
「やめて、もう時間だよ。帰って・・・・」
「まぁ、いいや。また来る。」
男は衣服を整えるとブツクサと何事か呟きながら部屋を出て行った。
今日は満月、いつもは暗いエセルの部屋も優しい真珠に照らされて明るい。
「誰も娼婦なんかに本気にはならないよ、欲しいのは身体だけ。」
ここは場末の娼館。こんな場所に夢や希望など落ちている訳もなく、ただひたすらに身体を売るだけ。
エセルがここに来たのは6歳の頃。下働きから始めて10年。身体を売り始めて1年。
娼婦は15歳になってからでなければ店に出る事は出来ない。国の決まりだから、それまでは下働きをする。
金髪に紫の瞳は貴族的で平民には珍しいらしく、客足は絶えなかった。
大銅貨1枚
それがエセルの価値だった。例え見目が少しばかり美しくても小さな町の底辺娼館ではこれが精々。平均的な月収が大銅貨3〜5枚のこの街ならそこそこの娼婦といえる。
別にこれに絶望はしていないし、死にたいわけでもない。ご飯も食べられるし、雨風を凌ぐ場所もある。
両親のことは覚えていない。
どこかの貧しい農家だったかもしれないし、没落貴族だったかもしれない。
覚えていないから恋しくもないし、悲しくもない。これが運命だから受け入れた。受け入れなければ死にたくなるから諦めた。
ご覧いただきありがとうございました。
反応いただけましたら続き頑張れますのでよろしくお願いいたします。
暫くは登場人物少なめです。