9話 侵入者
男は三日間できなかった分の筋トレを病院の個室の冷たい床の上でひっそりとはじめることにした。
ークエストー
クエスト4 バイシクルクランチ 100回
クエスト3 プランク10分
クエスト8 スライムを一匹たおそう
「とりあえず、バイシクルクランチだなっ!1、2、3、...
100。あれ?もう終わり?まったく筋肉が悲鳴をあげていないぞ。」
男はかつてないほどのスピードでクエストを淡々と進めていった。そう、男の尋常でないステータスの上がりように初期のクエストの難易度が追いついていないのである。
ーログー
<クエスト3を達成しました>
<クエスト4を達成しました>
<クエスト6を達成しました>
<クエスト7を達成しました>
<ステータスポイントが割り振られます>
「んー結構な量運動したはずなのに全然パンプしてないぞ..なんと悲しいことだ..」
男は嘆いた。
ーログー
称号勇者によりクエストに上位クエストが一部追加されました
ークエストー
クエスト8 スライムを一体たおそう
クエスト9スライムを百体たおそう
☆クエスト10 幹部を1人たおそう
「もうクエストに筋トレできるものがないし..ぴ....ぴえん!!!」
男はショックのあまりキモい嘆き方をした。
ガララッ。個室の扉が開かれた。
「おう。穂乃果おかえ..お前誰だ。」
男はそう並々ならぬ雰囲気で相手を威圧する。
なぜなら、入ってきた侵入者には返り血がたくさんついており。その表情はとても正気とは思えないほどの惚けた表情だったのだ。
「お!勇者クゥンお目覚めですかァよかったよかった。殺すにしても対抗してくれないとォまったく興ざめですからねぇ。まっどっちみち殺すんですけどねっっっ」
血まみれの侵入者は黒いコートに隠し持っていたであろう、禍々しい装飾の短剣を男に投擲する。
「ッッ」
男はとっさに手で急所を守る。が急所は守れたものの、短剣が右腕に深々と突き刺さってしまった。
「ンー、腐っても勇者なかなかの動体視力ですねェ。いたぶって殺してもいいですが、あの方に怒られてしまいそうなので手っ取り早く断頭といきましょぅぅ」
血まみれの侵入者は間髪入れずにどこからか禍々しい装飾の長剣を取り出し男に斬りかかる。
男はナイフを受けた後すぐにベッド脇に転がりベッドを怪力で持ち上げ盾とした。
ラッキーな事に男は二撃目の攻撃を防ぐことができた。
「お前の目的はなんだっなぜこんなことをする!」
男は叫ぶ。
「ンッンー。どうせ死ぬあなたに言っても意味はありませんゥ。サヨナラですッ」
もう一度血まみれの侵入者はベッドに斬りかかる。
「あれぇ。いませんねぇ」
何度も何度も盾となったベッドに突き刺し、ベッドがボロボロになる。
血まみれの侵入者はベッドを元の状態の位置に荒っぽく戻す。
「逃げましたか..」
血まみれの侵入者は開け放たれた窓をみてそう呟く。
窓付近まで近寄り下を見下ろそうとしたその時。
「ハッ。上だ!戯け!」
勢い良く侵入者の頭に男の力強い蹴りが入る。
男は病院の一つ上の階まで窓枠からジャンプしていたのだ。
「くぅぅ。痛いですねぇ。あははっでも捕まえましたよぉ」
侵入者の体をピクリとも動かず、男の足が掴まれる。
(マズイマズイマズイッ!)
男の体は侵入者に足を掴まれて空中に宙ぶらりんだ。
「そこまでよっ!おにいちゃんを離しなさぁぁぁいっ」
穂乃果が勢い良く侵入者の首を切りとばす。
(なっ...なんでランキング1位がここに...っ..)
侵入者は薄れゆく意識の中そんなことを思った。
男は落下する。
穂乃果はすぐに人間業とは思えないスピードで窓から飛び降り男より早く地面に着地し男の体を受け止める。
「俺の階結構高かったよな..?穂乃果お前一体..」
男は質問する。
「まー話は後でゆっくりしようよ。とりあえずお兄ちゃんが無事でよかったぁ。」
そう安堵しながら穂乃果は男を見てベタベタと抱きついてくる。
男はうれしさのあまり考えるのをやめた。