千吉良 弥
【視点:千吉良 弥 】
先月、クラスメイトが死んだ。
工事現場の横の道を通っているときに、上から落ちてきた鉄骨の下敷きになったそうだ。
隣の席のやつだったが、たいして話したりもしてなかった。なんというか、陰の薄いやつだった。
いてもいなくても変わらない、例えるなら、コンビニ弁当に入ってる緑のギザギザ。なんて、さすがに失礼か。
けれどそんなやつでも、いなくなると妙に意識してしまうもんで。気づけば、そいつが座っていた席を眺めている。
その机には花瓶が置かれ、水が満たされ白い花が入れられている。花の名前は知らん。
それを見ながら、ああ、死んだら机に花瓶置かれるってマジだったんだなぁ、なんて、我ながらもっと他になかったのか、と思うような感想を抱いたり。
俺もいつか死ぬんだなぁなんて思いながら、最近読み始めたラノベを開いてみたり。
それをダチにからかわれながら、別のダチをからかったり。
そんな何気ない日常が続いていくと、このときは思っていた。
つい最近、その日常を失ったやつが、身近にいたというのに。俺は、根拠もなく信じこんでいたんだ。
夏休みが一週間後に迫ったある日。
その日は、何の変哲もない日だった。
朝起きて、飯食って、学校行って、授業受けて、ダチと駄弁って、家に帰って、ゲームして、飯食って、ラノベ読んで、風呂入って寝る。
そんなありきたりな、一日になるはずだった。
異変が起きたのは、朝のホームルームの時間。委員長の榊さんが、号令をかけたときだった。
突然、教室の床が光輝いた。
しかもただの光ではない。その光は不思議な幾何学模様を描き、蒼白い燐光を放っている。それはまるで、ゲームなんかでよく見る魔方陣だ。
いきなりそんなものが出現したんだ。もちろん教室中、大パニック。みんな、どうしていいのかわからない。
その間にも、どんどん光は強まる。教室から逃げようとしているやつもいるが、なぜか教室から出られないでいる。
そして、ついに教室全体が光で満たされ、それと同時に感じる浮遊感。
次の瞬間、ものすごい轟音を聞いたような気がしながら、意識が途絶えた。
目覚めたとき、最初に目に映ったのは、木造の天井。見覚えはない。少なくとも、ここが教室ではないことは確かだ。
「見知らぬ天井だ。」
死ぬまでに一回言ってみたかったことを言えたなぁと、若干現実逃避じみたくだらないことを思いながら、考える。
どうやら俺は、ベッドに寝かせられているらしい。柔らかすぎず、固すぎない、俺好みの良い塩梅。枕も同様。
布団はかけられていない。教室にいたときと同じ格好、制服のまま仰向けに横たえられていた。
周囲を見回してみる。天井も床も、壁にいたるまで、ほとんどが木造だ。一つしかない窓は両開きで、その反対側には扉が。
家具はベッドと箪笥が一つずつと、必要最低限。もちろん木製だ。
なんというか、あれだ。キャンプなんかで泊まる、山小屋やコテージの中みたいだ。それか異世界モノのアニメで見るような、宿屋の一室。そんな感じのイメージにピッタリだ。
なんとなく、ここは医療施設の類ではないと思う。
ではここはどこだろうか。
真っ先に思い浮かぶのは、誘拐犯の拠点。
気を失う前とは違う場所にいる。つまり、誰かが移動させた。普通に考えれば、教室で気を失って運ばれるのは保健室だろう。次点で病院か家だが、ここがそのどれでもないことは確かだ。
となると俺をここに運んだのは、俺や学校の関係者ではない可能性が高い。
つまり俺は誘拐され、ここはその誘拐犯の拠点ではないか?と思ったわけだが。
「じゃあ、あれはなんだったんだ?」
あの、教室が強烈な光に呑み込まれた、あの光景。とてもじゃないがあんなの、人間にできることとは思えない。
良くできたCG?プロジェクションマッピング?それとも幻覚?
どれも違う気がする。
ふと、ラノベにありがちな、ある展開が頭を過る。が、すぐにそんな考えを打ち消す。そんな非現実的なこと、起きるはずが無いのだから。
とにかく、分からないことが多すぎる。何か少しでもいいから、情報がほしい。
そこまで考えて、とりあえずベッドから降りようとしたところで…
ガチャっと音が鳴り、ドアノブが回され、ギィと音をたてながら、ゆっくりと扉が開けられた。
すいません。
ストックが無くなりました。
次回更新は、一週間後を予定しております。