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クラスメイトがやって来た

 さて、そんな私は今、たいへん困った事に直面している。

 今朝私はいつものごとく、植物の世話をしていた。病気になったりしていないか見たり、土の精霊に頼んで草を抜いてもらったり、魔術で水をやったりだな。

 そうして一通りの作業を終え、昨日魔術の研究のしすぎで、多少寝不足だった私が、もう一眠りしようと家に入ろうとしたときだ。



 ドゴーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!


「な、なんだ!?」


 辺り一帯に、とてつもない轟音が響いた。驚きながらも、私はすぐに轟音の発生地点に駆け出した。

 何者からかの、襲撃を警戒したからだ。私は、この広場を覆うように結界を張っていた。その結界を抜けてきたということは、それなりの手練れである可能性が高い。その相手と戦闘になった場合、もしかすると家や農園に、被害が及ぶかもしれない。結界で守っているから可能性は低いが、万が一を考慮して、農園に近づけさせないために行動したわけだ。

 轟音が発生したのは、ちょうど広場の中心あたり。土煙がまっていて視界は悪いが、私はいくつもの人型らしき生命反応を、キャッチしていた。

 朦々と立ち込める土煙を、魔術による風で払うと、どでかいクレーターが現れた。

 そこには、三十人の人間が倒れていた。どうやら無事、仕掛けていた罠は役目を果たしたようだ。

 実は、広場の結界が破られた時を想定して、いくつか魔術による罠を仕掛けていた。例をあげると、気絶と拘束、それから自害の禁止とかだな。だから、侵入者が全員気絶して、倒れているのは予想がついていた。

 ただ、予想外という程ではないが、少し意外に思ったことがある。それは、侵入者達の年齢だ。一人を除き、成人しているかどうかも怪しい、少年少女ばかりだったからだ。しかも一人だけいる大人も、かなり若い。二十代前半、高く見積もっても、二十代後半ぐらいにしか見えない。しかも女性だ。

 こんなに若い年齢層の侵入者が、こんなに大勢来たのは初めてだったので、少し驚いた。

 だが本当に驚いたのは、ここからだった。

 まず最初奇妙に思ったのは、髪の色だった。全員が全員黒髪だったんだ。この世界、実は黒髪は珍しい。それでもいないわけじゃないから、この時点ではまだほんの少し、気になっただけだった。

 次に気になったのは、服装だった。特に少女達が着ている服。それらは前世で、セーラー服と呼ばれていたものに、酷似していた。というかその物だった。それに少年達が着ているのも、ちょうど日本の学生が着ていそうな服だった。そして何より、私はそれらの学生服に、ものすごく見覚えがあった。


「っ!これは、まさか。」


『完全記憶』でどんな昔のことでも、それこそ前世のことでも瞬時に思いだせる私は、すぐにその正体に気づいた。

 なんせその“制服”は、前世の『俺』が通っていた高校、華椿高等学校のものと、同じだったのだから。

 そして、気づいたのはそれだけじゃない。

 年齢を確認するときは、魂を見ていたため顔なんかは注視していなかったので、すぐには気づかなかったが、私はあることに気づいてしまった。


「おいおい、ちょっと待てよ。いやいやまさか、そんなわけ。」


 よく見てみれば髪形や背丈など、記憶の中の人物達と共通点が多々存在することに。

 できれば外れていてほしいと思いながらも、ほとんど確信しているそれを確認するため、私は一番近くに倒れていたその女性に近づく。

 そしてその女性の体を仰向けにし、邪魔な髪を払い、顔を確認する。


「桜町、先生」


 気づけば半ば無意識に、クラスの担任教師であった、その女性の名前を呟いていた。


 それから、一人ずつ顔を確認した。そしてわかったのは、前世の『俺』のクラスメイトとその担任教師、2年3組のメンバー全員が、この世界にやって来てしまったということ。

 なんでそんなことになったのか考えてみた結果、心当たりが一つ。おそらく、勇者召喚されてしまったのだろうということ。

 勇者召喚、それはとある国の秘術だ。一流の魔術師が何人も集まり、最上級の触媒や贄をいつくも用意し、数十日にも及ぶ儀式を行って行使するという。その効果は、文字どおり異世界から勇者を召喚するというもの。つまり、2年3組のメンバーが勇者に選ばれたのでは?と推測したわけだな。

 実際、人間と魔族はもう何年も前から戦争してるし、最近人間の方が押されぎみだと聞いた。あの国が勇者召喚に踏み切ってもおかしくはないだろう。

 ただ、この推測が当たっているなら、重大な問題が一つ存在する。


「なんで私の所に召喚されてんの?」


 そういうことだ。召喚されたなら、召喚主のところに出現するはずだ。しかしこの周辺にそれらしき人物はいないし、もちろん私は勇者召喚なんてしていない。まったく謎である。

 まあ、それはいい。いずれ調べるべきではあるが、今すぐにという程ではない。

 それからもう一つ、重大な問題がある。しかもこちらは、一つ目に比べて、早急に解決策を考えなければならない。


「ほんと、どうすればいいんだ。」


 目の前ですやすやと気持ち良さそうに眠る、2年3組のメンバー達を前に頭を抱える。

 ちなみに、あれから全員家の中に運び込んでいる。即席で作ったゴーレムで運んだのでそこまでではないものの、三十人も運ぶのはさすがに疲れた。今はたくさんあるベッドに、一人ずつ寝かしたところだ。ちなみに、魔術で汚れの類いは除去してある。使って無かったとはいえ、ベッドを汚されたくはなかったからな。ちなみになんで使わないのにベッドなんかが大量にあるのかといえば、昔家具作りにはまった時期があったからだ。まあ、自分でも作りすぎだと思うが、何が幸いするかわからないものである。

 と、軽く現実逃避してみたが、いつまでもこいつらを眠らせておくわけにはいかない。ちゃんと考えよう。

 何をそんなに悩んでいるのかといえば、目覚めたとき、こいつらにどういう対応をするべきか、ということだ。

 自分の正体を明かすのか、明かさないのか。そもそもこいつらをどうしたいのか。

 考えるべきことはたくさんあるのに、何を考えるべきなのかすら決まってない。

 そんな調子で、あーでもないこーでもないと悩んで悩んで…


 ようやく決断することができた。



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[一言] 勇者が誤配されて来た(゜ω゜)
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