ベアトリクス
私の名前はベアトリクス。ハイエルフだ。
今はこの森で、スローライフを満喫してる。趣味は真理の究明だな。
まあお察しの人もいると思うが、私は俗に転生者と呼ばれるものだ。前世のことは、完璧と言っていいぐらい覚えている。
私の前世である『俺』の名前は八木拓実。地球という惑星の、日本という国に住む、ごく普通の男子高校生だったよ。
代り映えのしない、日常をおくっていた『俺』はある日、上から落ちてきた鉄骨の下敷きになって死んだ。しかも即死じゃなかったから、痛いのなんのって。あのときの、だんだん体が冷えていく感覚は、今でも忘れない。
で、気が付いたら、不思議な白い空間にいたわけよ。
そこにはパソコンが1台あるだけで、他にはなんもないの。
そしてそのパソコンのディスプレイには、こんなことが表示されてあったんだ。
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【転生特典を選んでください〔28:52〕】
特殊能力
[][][]
固有魔法
[]
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しかも、横のタイマーみたいなのが、一秒ずつ減ってんの。けっこう焦ったね。
だから、急いでマウスを掴んでクリックしたよ。
それから色々見てるうちに、わりとすぐに落ち着くことができた。
なんというかこう、ワクワクしてきたんだ。
なんせ俺も健全な男子高校生だ。異世界転生というものに憧れを抱いたことも、一度や二度じゃない。
しかもだ。このパソコンのディスプレイを色々操作していたら、色々わかってきた。
それによると、どうやらこのパソコン樣は、俺にチートを四つもくれるらしい。
まず、特殊能力を三つ。そして固有魔法を一つだ。
しかも、選べる選択肢がすごい。
特殊能力なら、『能力強奪』『変幻自在』『魔力無限』『超筋力強化』『不老不死』『絶対切断』…etc.
固有魔法『創造』『破壊』『改造』『運命』『深淵』『神聖』…etc.
こんなのが、合わせて3桁近くあった。もちろんすごく迷った。
どれもこれも、ものすごいチートなんだもん。まあ一部そうでも無さそうなのや、名前からじゃどんなチートなのか、よくわからないものもあったけど。
それでも、ほとんどが分かりやすく強力だった。
あれも良いこれも良い。
そんな風に悩んで悩んで、ふとタイマーを見たら…〔00:17〕
ヤバイ!って、かつて無い程焦った。遠足の日に寝坊した時も、ここまで焦らなかったかもしれない。
そんな焦りから俺は、適当にスクロールして、適当にクリックして決定してしまった。
その結果がこれだ。
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【転生特典を選んでください〔00:08〕】
特殊能力
[分析演算][超神秘体強化回復][完全記憶]
固有魔法
[時]
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やっちまった。見た瞬間そう思った。『分析演算』と『完全記憶』はまだ良い。。あんまり良くはないけど、『超神秘体強化回復』よりはましだ。なんせ効果が分かりやすい。だが『超神秘体強化回復』はダメだ。そもそも神秘体って何?それを超強化回復?それにどんな意味があるの?まったくもって、効果の想像がつかない。
それから固有魔法の『時』。これもちょっともったいないと思った。なぜなら他にも『時空』や『次元』みたいな、時も操れそうな固有魔法はあったし、なんなら『支配』なんてのもあった。
悪くはないけど、他のに比べるとちょっと…て感じ。
だから俺は、せめて超神秘体強化回復だけでも修正しようとしたけど、間に合わなかった。
パソコンの画面では
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【Time UP!】
特殊能力
[分析演算][超神秘体強化回復][完全記憶]
固有魔法
[時]
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と、表示されていて、俺は、突如足元に生じた穴に落ちていった。もうちょっと何か、演出とかあっても良かったと思うんだけど。
で、気がつくと、エルフの赤ちゃんになってたってわけ。しかも女の子。最初は愕然としたね。けどまあすぐに、特に不都合は無さそうということに気づいて、割りきることができた。割りきれたら、案外すぐに慣れた。
そうなったら、これからの人生についてよく考えるようになった。
考えて考えて、まず思ったのは鍛えることだった。
肉体のこともそうだけど、この世界特有の謎パワー、魔力とかの単純な基礎能力。
そして生きる上で役に立つ技術。料理洗濯なんかの家事はもちろん、剣術なんかの身を守るための技術も。それから、魔術や魔法なんかの、摩可不思議な技術もそう。
そんな感じに、私はとにかく頑張った。生まれ変わって性格でも変わったのか、努力するということが、それほど苦じゃなかったのも良かった。
しかも私はチート能力のおかげで、記憶力や分析能力が馬鹿みたいに高かった。おかげで天才や神童なんて呼ばれ方をしたよ。
それでも私は、調子にのることはほとんど無かった。なぜかって?
覚えてるからだよ、前世のことを。
調子にのって失敗した、自分自身の経験。創作の世界で、破滅していったキャラクター。ちょっとでも調子にのるたびに、そういった事柄が頭を過るんだ。そりゃあ自戒するようにもなる。『完全記憶』には、ほんと感謝だ。
そうやって、地道に力をつけていった私は、成人するころには、あらゆる面で他者より秀でた力を持っていた。
それから冒険者というファンタジーでありがちな職についた私は、高難易度な依頼をいくつも成功させ、史上最短で最高ランク冒険者の称号を手にいれた。
その過程で、様々な経験をした。新たな師や友人との出会いに、幼馴染との死別。小国ながら、国を一つ救ったこともあったし、私の力を手にいれようとしてきた、大国の国王を殺したこともあった。覚醒して、ハイエルフへとこの身を変異させたりもした。
ただ、頂点に至ることで、めんどうなことも増えた。私に取り入ろうとしてくるもの、利用しようとしてくるもの。そういったもの達が、頂点に至る前より格段に増えた。
そうして、人付き合いが煩わしくなった私は、両親が寿命を迎え、親しい知人達が軒並み彼の世へ旅立つと、この森の奥地に引きこもることにした。
今ではほとんど森の外に出ることもなく、一人魔術の開発や、錬金術による新たな物質の創造などを行っている。