桜町 玲羅 ②
遅くなってごめんなさい!
前話の桜町先生の心の声の口調を少し変更しました。
話じたいに影響はありません
「はぁ、ようやくスタート地点か。お前達は私の気が長いことに感謝するべきだと思うぞ?」
そう一言軽い嫌みを言った後、ベアトリクスさんは淡々と説明を始めました。
曰く、私達はとある国に、勇者と呼ばれる戦争のための戦力として召喚された可能性が高いこと。
それが何らかの理由で、ベアトリクスさんの家の庭に召喚されてしまったらしいこと。
世界を越えた私達には、魔力という不思議な力が膨大に蓄えられており、さらにユニークスキルというこれまた摩訶不思議な魔法みたいな力が備わっていること。
ここは大陸中央に位置する、魔物という化け物が跳梁跋扈する、魔の森と呼ばれる危険地帯の奥地であること。
例えその森を運よく抜けられたとしても、この森の周辺国はほとんどが戦争状態。そうでなくても、いつ巻き込まれるかとピリピリしているところばかり。
そんなところにいっても、言葉も通じない私達は生きていくこともままならず、野垂れ死ぬのがおち。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そこまで聞いて、つい私は口を挟んでしまいました。
なぜなら…
「言葉、通じないんですか?」
そこに引っ掛かったからです。確かによくよく考えてみれば、国どころか世界が違う。なら、言葉が通じないのは当たり前でしょう。けれど、ベアトリクスさんとは会話が成立しています。
なぜ?
この疑問を放置しておくことは、私にはできません。
「今そう言っただろう。そもそもこの世界の者達が、お前達の言葉を知っている方がおかしいであろう。私がお前達と会話できているのは、この翻訳の魔道具を使っているからだ。これは自分の言葉を伝えたい相手の言語に、相手の言葉を自分の言語に自動変換してくれる。しかしこれはかなりの貴重品で、富裕層でもかなり上の者でなれば手に入れるのはまず不可能な品だ。」
そう言ってベアトリクスさんは、紫色の宝石が嵌め込まれたネックレスを見せてくれました。
…確かにかなり高そう。
これは譲ってもらうわけにもいきません。
「理解したか?そもそも言葉の問題がどうにかなったところで、黒髪黒目なんて珍しい容姿の出自不明の30人の集団なんて、まともに受け入れられるとは思えんな。最悪魔族の手先として殺される可能性もある。例え運よく生き延びることができたとしても、お前達を召喚した国が血眼になってお前達を探すだろう。すぐに勇者とばれて、戦力として国に飼われるのがおちだ。かといって、魔族の国に行くのは論外だろうよ。まあ、拷問にかけられて死ぬ覚悟があるなら別だが。」
そんな覚悟あるわけありません。
まして、生徒達にそんな覚悟を決めさせるわけにはいきません。
けれどどうしたら…
現地人を頼ることはほぼ不可能。となると、私にはサバイバルぐらいしか思い付きません。そんな、下手すればホームレスより苦しい極貧生活なんて、生徒達に強いるわけにはいきません。というか、生きていける気すらしません。
だからと言って国の保護を受け、戦争に加担するなんてもってのほか。
簡単にまとめれば、死ぬか殺すかなんていう究極の二択から選らばなければならない、ということになります。
八方ふさがりとはこのことを言うんでしょう。
「そんな、いったい私達はどうすれば…」
「そんなお前達に一つ提案がある。」
軽く絶望していた私に、ベアトリクスさんはそう言って、“提案”の内容を話始めました。
まず、ベアトリクスさんは私達の命の保証をする。具体的には、国家から匿い、衣食住を提供する。それから、この世界の情報の提供。
その代わり私達は、ベアトリクスさんの研究のために手を貸す、つまり助手のような役割をする。
たったこれだけ。一見、私達に有利な提案に思えます。
けれど、助手なんて言葉を使ってますが、額面通りに受け取ってはいけないでしょう。そもそも私達に助手の役割なんて勤まるとは思えません。となると、正しい役割の名前はこれでしょう。“モルモット“
つまりベアトリクスさんは私達に、実験動物になれと言っている、と捉えるのが正しいでしょう。
死ぬか、兵器として利用されるか、それが嫌なら実験動物として飼われるか。
こう並べると、前二つとそう変わらないように見えるのは、私だけでしょうか。
「まあ、今すぐに決めろとは言わん。一度全員で話合って決めるといい。どうやら全員、目を覚ましたようだしな。まあ、実質選択肢は一つだろうが。返事は、そうだな。明日の日の入りまでとしよう。ああそれと、この家の中なら自由に移動してかまわない。入ってはいけない場所は“鍵”をかけてあるから心配はいらない。ただし家の外には出るな。出るのは自由だが、その場合何があっても自己責任だ。何があろうと私は助けるつもりはない。忠告はしたぞ?あとは…わからないことがあれば聞け。」
これには少し驚きました。まさか話し合いに丸一日もらえるとは思いませんでした。てっきりすぐ決めろと言われるか、長くて一時間くらいかと…。
それに家の中を他人がうろつくのを許してくれるとは。よほどセキュリティに自信があるのか、不用心なのか。
…間違いなく前者ですね。
「それでは食事の時間に呼ぶので、それまでは自由にしていろ。ではな。」
そう言うとベアトリクスさんは、指をパチリと鳴らし…
その瞬間私達は、別の広い部屋にいました。
どうやら瞬間移動させられたようです。千吉良君の話を聞いたときからもしやとは思っていましたが、こう体験するとかなり驚きますね。
「せ、先生!」
「委員長もいるぞ!」
「千吉良!無事だったか。」
「この突然現れるの全然慣れない。」
どうやらこの部屋には、2年3組のメンバー全員が集められていたようです。
でもみなさん、私達が突然現れたことにはあまり驚いていませんね。
あ、全員体験済みですか。そうですか。
おっと、こうしてはいられません。
私はみんなの先生なんですから。
とにかく、まずはみなさんに説明しなくては。
次は一週間ぐらいで書けるかな?