回想と放課後
俺は中学時代、野球部に入っていた。レギュラーだった。
だが、決してそこで目立っていたという訳ではない。
野球センスが良かったわけでもない。だから、打てない、守れない、と周りの人は考えているだろう。
だけど、なぜそんなやつが野球部に入っていたのか。
簡単だ。
長谷川隼、彼は小学校時代、日本代表に選ばれるほどの実力が投手としてあった。だけど、そんな彼が何の変哲もない公立の中学に入ったらどうなるだろう。
答えは簡単だ。
彼のワンマンチームになる。
それだけなら良かったのだ。
隼という絶対的エースを手に入れたことにより、チームメイトは練習をしなくなる。だってそれでも勝てると思っていたから。
そして迎えた新人戦、エラー祭で話にならない。
その後、3年生はチームを抜け、チーム唯一のキャッチャーがいなくなる。
だれも真面目に練習に取り組んでいたものはいなかった。
その結果、隼の球をとれるものはいなかった。
そこで俺が抜擢された。
当時、隼とは良くキャッチボールをしていたのを知っているやつは多かった。
捕るだけでいい。
打たなくていい。
練習もしなくていい。
その事を条件に俺はチームに入った。
だが、しっかり練習はした。毎日、あの事があっても。
隼の球を捕りこぼしたくはなかったから。
そのお陰で人並み、いやそれ以上の能力を手にする事ができたとは思う。
だけど、その能力を奮うことはなかった。
だって、俺はあくまでも隼の引き立て役なんだから。
あくまで、隼のためにチームを率い、まとめるだけ。
そう考えての行動だった。
あくまでも隼の能力を引き出す、それだけの存在だから。
もちろん、目立ちたくなかった、というのもあった。
だが、隠していたせいかお陰か、俺はあの生徒会長に見つかり、この高校に入ることにもなるのだが……。
昼飯を食べた後、廊下で香野や隼と別れ、教室に戻ると視線が集まった。羨望の視線、侮蔑の視線、憎悪の視線など様々だ。
恐らくは可愛い女子と昼飯を食っただとか、泣かせただとか、しょうもない感情からの視線だろう。
と、いうよりそう考えないと心が持たない。
辛いんよ。
その後の授業はつつがなく行われた。視線は痛いものだったが。
放課後、さっさと帰ろうと荷物をまとめていると、鈴が
「健。いっしょに帰ろ?」
と、誘ってきたのだ。
しかし、こいつはもうクラスの中心人物となっていた。
しかも可愛い。
そんな子が、クラスで浮いている男に話しかけたら、どうなるか。
知ったものか。考えるだけで反吐が出る。最悪何とかなる。
俺は、鈴に、
「ん。隼は?」
と、問う。
「校門で待ってるって」
「分かった。先に行っててくれ」
「うん」
そうして、俺から鈴を離す。自意識過剰ではあるが、念のためだ。
荷物をまとめ、席を立つ。
後ろから嫌な視線は感じるが、感じないことにする。
校門に着くと、鈴、隼、香野がいた。
「よし、行くか」
俺のその声で歩き出す。
「永山君は、部活なに入るか決めた?」
「いや、というか、部活は入らない」
「え、そうなの? 野球やってたじゃん」
「あー、まあそうなんだが」
「ふーん。ま、いいけどさ。隼君は?」
「野球部には入ろうかなと思っている。じゃなきゃこの高校に入った意味がない」
「確かにな、そうゆう香野は? どうなんだ」
「うーん。永山君が野球部入るならマネージャーやってもいいけど、やらないんだったら帰宅部でいいかな」
「お、おう。鈴はどうなんだ?」
なんか香野に言われてしまったので、動揺を悟られないように鈴に話をふる。
「私は普通にバレーかな」
「やっぱりなー」
この通り、俺たちの高校は頭がいいだけでなく、部活面にも力をいれていて、全国大会出場経験のある部が数多くある。
女子バレーボール、野球部もだ。
まあ、スポーツ推薦もあるがそれでも学力が十分にないと入れないという鬼畜なものだ。
スポーツだけしかやっていないやつ入ることが出来ない。その代わり入ることが出来れば充実した施設、指導がある、ってのが謳い文句なんだがな。
そんなことを話しながら歩いていると、駅に着いた。
本来なら俺は、隼や鈴と帰るのだが……。
「香野、一緒に帰らないか?」
「「「え?」」」
他の3人の声が重なった。
え? そんな驚くことか?
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本当は定時更新をしたい……。