昼飯
「あの、永山君いますか?」
その声で教室中の視線がこちらに向く。
恥ずかしい、ホントに恥ずかしい。
よし、聞かなかったことにしよう。うん、そうしよう。
そうして、だんまりを決め込んでいると、
「健! いく!」
鈴さんがおっしゃるではないか。隼のやつも笑顔で手招きしている。香野は……、俯いて震えている……?
それに気付いたクラスの女子が、
「え、あれ、泣いてない?」
「うそー、最低」
「ホントだよね」
と、ほざく。
男子にいたっては、
「あんな可愛い女の子を放っとくなんて、男子としてありえない。僕だったら、さっさと行ってるよ」
「ホントだな」
と、言う。安心しろ。お前らにそんなことは訪れない。
しょうがない。ここで黙っていても悪評が立つだけだ。
別に泣いてるから行くとかではない。うん。
席を立ち、香野の元へ向かう。すると、足音で気付いたのだろう。香野がゆっくりと顔を上げる。
(こいつ。本当に泣いてやがる……。こいつなら引く手あまただろうに。)
そして、俺をみとめるとぱあっと笑顔を綻ばせた。
(それは、反則や)
そんな内心を感づかれるわけにもいかないので、さっさと飯に行く。
「おい。いくぞ!」
「うん!」
まったく。可愛いやつめ。
で、学食に着いたのはいいが、人混みが凄く席も空いてないように見える。
はあ。あそこにはあまり行きたくないのだがな。こうなったらしょうがない。
「隼、香野をあそこに連れていってくれ」
「分かった。気を付けてね?」
「あの人のことなら大丈夫だろ。恋愛大好きだし」
「ハハッ。それもそうだね」
その返事を聞きながら、俺は歩き出す。
「えっと。永山君、どこ行くの?」
「うーん。強いて言えば……戦場、かな?」
「え?」
「ま、彼なら大丈夫。ほらさっさと行くよ」
「あ、うん」
さすがに戦場は言い過ぎだ。地雷原と言え。
それでたどり着いたのがここ、生徒会室。
ここに来るのは久し振りだな。
といっても、生徒としてくるのは初めてだが。
コンコンコン。
3回ノックする。
中から、
「どうぞ」
と、声が聞こえる。
「失礼します」
と、言いながら生徒会室のドアを開け、部屋の中に入る。
すると、
「おー! 永山じゃないか! 元気だったか? あれ、長谷川は?」
「久し振りです。ゆかりさん。いえ、生徒会長」
「そんな改まらなくていいから。で、今日はなんだ? あの時の約束、果たしてくれるのか?」
「いえ。第一、その事は隼が入る、で解決したはずですが」
「確かに、長谷川が入るだけで十分なんだが……。まあいい。で、要件は?」
「屋上の鍵を貸して下さい。そこで昼飯が食べたくて」
「ああ、そんなことか。ほれ」
そういって結さんはこちらに鍵を投げつけた。
「うぉっ」
なんとかとれた。
「ふっ。なんだかんだいっても体は鈍ってないようだな」
その言葉は無視して、ドアの前で礼をする。
「ありがとうございました」
「なあに、これくらい」
「お前が入ってくれればなぁ」
その言葉も無視して歩き出す。
「くそっ」
今はそんなことに構っている暇はない。さっさとあっちに向かおう。
屋上へと続く階段を上りきると、香野がふて腐れていた。
「遅い」
だそうだ。これでも大分頑張ったんだがな。
取り敢えず、
「すまん」
と、返すと
「別にいいけど」
だそうだ。ご機嫌斜めですね。ま、そんな感情、ここからの景色を見れば、消し飛びますがな。
そして、屋上へのドアの鍵を開け、一気に開く!
ブワッ
一気に風が入り込む。
そこから見える景色は……、
ザ・曇天。
うーん、この。
「わ、わあ。きれーい……」
香野が気を使ってくれてなんとか場の空気は持った。
俺のライフポイントはゼロだがな。
「取り敢えず、ご飯、食べようか」
「うん!」
隼のその声で、屋上の大体中央で昼飯を広げ始める。
「あれ、そいや、鈴は?」
「クラスの子とたべるって」
「ほーん。ま、いっか」
そうして、各々が食べ始める。
すると、香野が何かを思い出したようにバッグを漁り始める。
「あ、あの。永山君!」
「うん? どした?」
「はい、これ」
そういって取り出されたのは、おにぎりだった。
「えーと、これは?」
「朝のお返し」
「お、おう。ありがとう」
やべー。心臓持たねえ。
「まあ、この状況で一番困るのは僕みたいなポジションだけどね?」
うるへー。お前は黙ってろ。
そんなこんなで昼飯を食べ終え、まだ時間があったので雑談タイムに入った。
「そういえばさっきはどこに行ってたの?」
「生徒会室。ここの鍵貰いに」
「え、生徒会室?」
「ああ。生徒会長が知り合いでな」
「確か、私たちの高校の生徒会長ってまだ2年生だよね?」
「ああ。」
「それで思い出した」
「うん? 隼どうした?」
「あの件、本当に大丈夫なの?」
「問題ない。学力自体が足りてたってのがでかかったな」
「そう。だけど、まだ懸念材料はあるよ」
それに俺は頷いて返す。
「青雲祭」
青雲祭、それは俺たちの高校、青岩高校と、他校の、雲中高校の2校の私立高校で毎年行われる野球大会だ。とはいっても、全員参加ではなく、代表で1試合を行い、勝敗を決める、というものだ。
別に、勝とうが負けようがどっちでもいいのだが、負けた方は、その回の試合の費用を6割負担する事になっているので、払いたくない学長がやっけになっているのだ。
また、これも特殊ルールで試合の参加者は半分が野球部以外でなくてはいけないというものだ。
この特殊ルールのお陰で俺は損したり、得したりしめているのだが……。
「青雲祭って、あの祭?」
「ああ。」
「あ、もしかして永山君出るの? 確か中学の頃野球部だったよね? しかも高校では帰宅部志望だし」
「そうだが、でねぇよ。」
「えー。そうなんだ、残念」
「残念でもねぇ。ほら、帰るぞ。もうすぐ予鈴鳴る」
「うん」
本音を言えば出たくない、が、それは無理そうか。
隼が心配そうにこちらを見てくる。
大丈夫だ、とアイコンタクトで返す。
なら、いいけど、とアイコンタクトで返される。
このくらいのアイコンタクトなら、あの場所で散々鍛えられた。
マウンドで。
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世界的なルールではノックは4回だそうです、気を付けて下さいね?