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会話

遅れてしまい、すみません。

「ギリギリだったな、永山」


 会議室に響くその声は、僅かながらに怒気をはらんでいた。


「すいません」

「まぁいい。では、会議を始める。全員、席について」


 その声にこの部屋にいた皆が従う。

 それほどまでに、この人はすごいのか、と思う。


「では、今日の議題だが……」


 会長が、前で今日の議題を説明している。

 皆が聞いているその隙に、俺は隣に座っている人に、


「さっきはありがとな」


 と、言う。

 それに隣の人は、


「いえいえ。次は、気をつけて下さいね?」


 と、返す。


「ほんとにありがとな、須藤」


 最後に、もう一言告げ、俺は会長の説明を聞く姿勢に移る。


「はぁ……」


 須藤の、そのため息が、何に対してのものなのか、俺には知る由もないだろう。


 


「これで、午前の会議を終わりにします。昼食休憩45分を挟んで1時ぴったりに午後の会議に入りたいと思います。一旦、お疲れ様です」

「「「お疲れ様です」」」


「んーーー、はぁ……」


 疲れたー。

 やっと休憩だぁっ。


「須藤、飯どこでた……べ……」


 須藤に飯を一緒に食べないか、と誘おう声をかけたはいいが、須藤の後ろに会長がいるので、多分無理だろう。


「あははっ……。じゃあ私はあっちでみんなと食べてますね」


 案の定、須藤には逃げられてしまう。

 俺に1人だけで飯を食えと言う気かこの人は。 


「で、何ですか、会長。俺は見ての通り昼飯を食べようとしているんですが」

「あぁ、そのことなんだが……」


 会長は一度そこで口を閉じ、一瞬迷ったあと、


「そ、その、飯を食べながら、でいいか……?」 


 と、小さいながらも問うてきた。


「いや、いつも食べてるじゃないですか」

「そ、それとこれとはっ、違うからっ……!」

「えぇ……」


 意味が分からん。

 いつも昼休みはみんなと、みんなと……。


 あっ、そゆことね。

 うん。

 めっちゃ緊張しないでもないけど、相手は会長だしなぁ……。


「まぁ、なんとなく分かりました。とりあえず、食べましょ。時間がなくなる」


 さすがにこう言ってしまえば素直に応じてくれるだろ。


「そ、そうだな。うん。時間がなくなってしまうしな」


 無理やり自分を納得させて隣の席につく会長。

 そこまでか。


「で、話しとは?」


 弁当を開けながら聞く。


「あぁ、それか。あっ、普通にしゃべっても?」

「別に平気ですよ」

「ん、ありがと。あっちの感じって好きだけど疲れるんだよねぇ」


 そう言いながら、いわゆる『普通』の感じに戻る会長。

 あっちの方で慣れてるから、違和感しかないが。


「疲れるなら……って、これ前も聞きましたっけ」

「聞かれた聞かれた。まぁ、分からなくもないでしょ?」

「まぁ、理由は分かりますけど、会長がボロを出すとは思えないんですよ」

「そうかなぁ」

「そうですよ。俺だったら演じても、ボロ出しまくりだとは思いますけどね」

「えぇ……、そっちのが信じられない、って言っても聞かないか、君は」

「そうですね。まぁ、その手の言葉を信用してないってのもありますけど」

「大変な生き方だねぇ。ま、そこがいいとも思うんだけどね」


 そこで一旦、言葉を切り、会長は近くのコンビニで買ってきたのだろう、おにぎりを一口食べてから、


「て、いうかさ、君も改まって喋ることないよ。その方がこっちとしても楽なんだよね」


 と、言ってきた。

 俺も弁当を一口食べてから、


「いや、さすがにここでは……。会長と俺が仲良く話してるってのも」 


 と、返す。


「そうかな? みんな、そこまで気にしてないと思うけど」

「気にしてないって言われても、こっちは気になるんですよ」

「え、なに、自信過剰?」

「どうしたらそうなんだよ……、あっ」


 やべっ。

 言ってしまってから気付き、周りをみる。


 が、誰一人として俺に対して訝るような視線を送ってきてはいなかった。

 それを見て会長は、


「ね、言ったでしょ?」


 と、ニヤニヤ聞いてきた。

 完全に馬鹿にされている。

 こちらもなにか反撃できないか、そう考えていたら、あることを思い出した。 


「あの、会長」

「ん?」

「1つ、いいですか?」 

「うん、いいよー」

「その、前話してくれた話なんですけど」

「……あー、あれ?」

「はい」

「なんかあったの?」


 と、キョトンとしている会長。


「その、会長は大丈夫なんですよね?」

「ん? まぁ、実害もないしね」

「じゃあ、他の人は?」

「他の? あぁ、沙希とかか」


 言葉の後半はほとんどささやきに近かった。

 状況が状況だからだろう。

 それに合わせて、俺も小声で話す。


「はい」

「まぁ、大丈夫、だとは思うよ」

「ならよかっ……」


「ただ……」


「えっ、ただ……?」


「ただ、1つあるとすれば、また3人で遊びたいかなってさ……」


「……」

「いや、そこまで重くないよ」

「……」

「だって、簡単じゃん。私が、振ればいいだけでしょ? ほら、それで全部解決。沙希も私に対抗する必要性なくなるし、チャンスもできるわけでしょ?」

「……」


 簡単に言ってはくれるがそんなの無理だ。

 第一、それで解決するならとっくに解決して、今頃は笑い話にでもなってることだろう。

 それを、会長が分かっていないはずがない。

 だけど、俺にそれを指摘する資格はない。

 だから、


「まぁ、そうかも、ですね……」


 こう、曖昧に答えるしかない。


「うん、そう」


 そこで会長は少し、息を吐いて、


「だけどさ、その……聞いてくれて、ありがと。少しは楽になった、かな」


 と、諦めからきた、そんな笑みをこちらに寄越した。



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