ライバル
遅くなり、すみません。
「会長。お久しぶりです」
そういった彼女は、どこかでみたことがあるようなないような、そんな感じだった。
綺麗とか美人とか、そうゆう部類には入るが、そこまで目立たないような顔。
プロポーションは普通よりやや細いぐらいか。
なにが言いたいかというと、街で見かけたら『あっ、綺麗』とは思うが記憶には残らない。
クラスにいたら、クラスの中に1人か2人『俺、あいつのこと好きなんだよね』とか言うやつが出てくるような顔とプロポーション。
結局、なにが言いたいのでしょう?
俺がそんなことを考えてるとはもちろん知らないであろう彼女に向かって、会長はこう言った。
「久しぶりですね。市川沙希」
いつもの尊大な態度を抑えた、クラスメイトと話すような口調。
「えぇ、あの時以来、ですかね」
「恐らくは」
「あの時はありがとうございました。とてもいい経験になりましたよ」
「それは良かったですね」
「えぇ、ほんと。ですが……」
「次は勝たせていただきます」
「そ、そう……」
市川さんのその言葉の真意は分からなかったが、会長がなにかに驚いていることは伝わってきた。
「では、失礼します」
そう言って、市川さんは部屋から出ていった。
僅かの沈黙。
それを破ったのは言うまでもなく……。
言う、までもなく……。
……。
うん、知ってた。
いざこうなると誰も声なんてあげれないよね。
てなわけで、
「会長、今のは?」
と、聞く。
「あぁ。まぁ、ライ、バル?」
「ライバル?」
『意味が分からない』
この部屋にいる大半がそんな感想を顔に出しているだろう。
「うん。えぇと、話すと長くなるけど、いい?」
「えぇ、まぁ」
「はい」
「いいですよ」
「じゃあ、話すね?」
そいや、いつの間にポンコツ語りというか、普通の口調になってるな。
「えぇと、まず沙希ちゃんと私は……」
話し始めてから数分。
会長は、
「今ので全部。伝わった、かな?」
そう俺たちに聞いてきた。
「とりあえず、少し考えても?」
考えなしに頷くのは違う気がするからな。
「うん、いいよ」
そう許可を貰ったので一度、会長の話を整理する。
会長と市川さん、谷川は家が近く、いわゆる「幼馴染み」だったそうだ。
幼稚園、小学校、中学校、果ては高校まで進学先が同じ。
(まぁ、前3つは家が近いから当たり前だとは思うが)
で、昨今の少子高齢化の煽りを受けたのか受けてないのかは定かではないが、近所にはあまり家族連れがいなかったらしい。
(受けたのか受けてないのかのところいらねぇだろ)
それもあって家族ぐるみでよく遊んでいたらしい。
そうすると会長たちも自然と仲良くなって親がいなくても遊ぶようになったらしい。
その頃から中学2年の頃までは仲が良かったらしい。
が、中学2年の修学旅行の後にそれは起こったらしい。
修学旅行の夜。
1日目か2日目かは分からないけど、寝る時間に全部屋で「恋ばな」になったそうな。
(いやなんでしってんだ。てか、その流れは大体初日だ。初日は謎のテンションでそんな話が出る。これ体験をもとにしてるからあってるはず)
修学旅行から帰ってきた後、学校ではもちろん『絶対言わないから』などという約束はお約束となる。
お約束展開になったことで学年中に『誰々君が誰々ちゃんのこ好きだって』、『誰々ってあいつのこと好きなのかよ!』と、言いふらされる。
(あれはまじでかわいそう。俺的には他人事だけど。俺はそうゆう話が始まると寝て、翌朝班員に蹴られて起こされるタイプです。あれはまじで痛い)
それで、だ。
その流れである噂が出たらしい。
『谷川が会長のことを好きだと』
当時、学年どころか、学校で知らない人はいないと言われるほどの美男美女コンビ(当の本人は謙遜していたが)。
まぁ、そのコンビの噂が出たのだ。
学校中は大騒ぎ。
だってそうだろう。
その噂が出てもおかしくないタイミングなのだから。
夜の恋ばな。
そこで普段は隠していることがばれてもおかしくはないだろう。
まぁ、それだけなら良かったらしい。
否定はしていたし、第一に、それくらいならしばらくすれば収まると。
そう踏んでいたらしい。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
まぁ、大体ここまできたら気付くだろうが、案の定というかなんというか、当然かのように市川さんが谷川のことを好きという噂も流れ始めた。
これで学校中は大盛り上がり。
休み時間の度にその話題が上がる。
しかも、市川さんは否定をするどころか、
『うん、好き、かな。だから、ゆかりに負けないように、頑張る』
これが、決め手となった。
会長、谷川。
この2人と混ぜても遜色ない市川さん。
その3人の噂は3人が卒業するまで続いた。
らしい。
いやなげぇよ。
てか、これ現実なんすか。
おかしくない?
なにこのフィクションみたいな展開。
つか、結局どういうことだ。
「会長、1つ、聞いても?」
「いいぞ」
「その、なんでライバルになったの?」
ここで聞いとかないと、後々めんどくさくなる。
その問いに会長は、
「え、私もよく分からない」
「分からねぇのかよ!?」
「いやだって、こう、なんていうか、説明しにくいの!」
「えぇ……」
釈然としないが、なんか言うと怒られそうなのでやめた。
女子って怒らせると怖いらしいし。
その後は簡単な業務連絡という名の業務の押し付けにあったが気にしない。
押し付けられたらまた誰かに押し付ければいいだけ。
そう、谷川とか、谷川とか、谷川とか。
会長の幼馴染なら平気でしょ。
そんなわけで、帰路についたのだが、当然のことながら、話題は先ほどの会長の話になる。
「結局、どう言うことなんだろうな」
「ね。よく分かんないよね」
「まぁ、確かにそうですが……」
「そうですが……?」
「1つ、私なりに考えがありまして」
「お、まじ?」
「まじです。なんならガチです」
「ガチって……」
「……すいません。間違えました」
それはさすがに、と言おうとしたら須藤は、顔を赤くして訂正した。
「とりあえず、話聞かない?」
「そうだな」
香野が話を進めてくれた。
俺だったら無理。
「そうですね。じゃあ、行きます。ただ、あくまで感、なので」
「大丈夫だ。少しでも疑問が払拭できればいいから」
「そうだよ。じゃあ、お願いします」
「はい」
そう返事をし、須藤は語り始めた。
「私が思うに、会長の『ライバル』発言。あれは合ってると思うんですよね」
「ただ、会長はそれを自覚してなくて、市川さんが勝手に思って、それを会長に伝えたのでは、と」
「で、そうなった要因には恐らく修学旅行が関係していると思います」
「修学旅行の例の話。恐らく両方本当です。本当、というより本音、ですかね」
「で、それを前提に考えるとピースがぴったりはまるんです。というより、そう考えないと筋が通らないと思うんですよね」
「まぁ、そうすると、一方通行な関係が出来上がります」
「そうなると、市川さんは幼馴染とは言え、会長に対して負の感情を抱いていたと思うんです」
「しかし、会長は中学生の頃とは言え、この高校に主席で入れるレベル。さぞかし成績も良かったでしょう」
「なら、『そこで勝てば彼を振り向かせることができるかもしれない』と考えても不思議ではないと思うんです」
「それで、『ライバル』発言、ライバル視に繋がったんじゃないでしょうか?」
須藤は、そこまで話してから、
「あくまで、『感』ですよ?」
と、付け加えた。
読んでくださり、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマーク、評価の程よろしくお願いします!




