父親
「で、どうなんだ? 実際」
夕飯を食べ終え、リビングでまったりしようと思ったらこれだ。
なんでわすれてくんねぇかなぁ?
「いや、そんなことはない」
「ほんとか?」
「あぁ」
「なら、ならどうして……」
「休日にかわいい女子とイチャコラしとんじゃ!」
「えぇ……」
「俺は見たぞ? 先週の土曜日、貴様とかわいい女の子が抱きついているのを!」
「いや、それは……」
「それは?」
「いや、あの、その、はい、どうぞ……」
やべぇ、こえぇ。
「ふん。貴様に向かって『健って呼んでいい?』とな」
「お、おう」
的確に当ててやがる。
こいつマジだな?
「だけど、それの何が問題なの?」
横から雪の助け船が来た。
「そ、そうだ。何でだ?」
「そんなの決まっておる……」
「お前には『実花ちゃん』という心に決めた女の子とがいるだろ!」
「へ?」
「はぁ」
俺と雪の反応は合わなかった。
悲しい。
「えぇと? つまり?」
一応事実確認。
「言わないと分からんか? まぁ、言い。すぐ終わる」
「つめりだな? 引っ越し先に突撃して告白した女の子を諦められるわけがない、ということだ」
まじか、覚えてたのかよ。
「いやぁ、振られたと知った時にはどうなるかと思ったがな。大丈夫そうでなによりだ」
「お、おう」
これも意外。
俺がしょんぼり帰ったら笑ってたぞ? この父親。
『俺の非モテが遺伝したな、ガハハハッ』
って。
あれは演技だったのか?
「で、だ。そんなことがあったのにも関わらず、別の女に鞍替えするとは何を考えている! と、言いたいのだ」
言っていることはまぁ分かるが、それには重大な欠陥があってだなぁ。
それで、俺が言おうか言わまいか悩んでいたら、
「あっ、お父さん。それが実花さんだと思うよ?」
「へ?」
言っちゃったわこの人。
「ちょっと頭冷やしてくる……」
この言葉を残して父さんは自室に戻っていった。
「よかったの、か? 言っちゃって」
「別にいいでしょ。勘違いされたままのがめんどい」
「たしかになぁ」
一理ある。
むしろそれしかない。
「だが、まさか見られてるとは……」
「そりゃ、駅でやられたんだから見てる人はいるでしょ」
「はぁ」
「で、どうなの? 名前で呼ばれた?」
「いや、まだ……」
「それもそか。いきなり呼ぶのは緊張するし、なによりあのことがあったんじゃ尚更ね」
一応雪には全部話してある。
鈴が相談できる1人でもあると考えたからだ。
「でさでさ。も1人の子は?」
「うん?」
「いや、だからさ、須藤さん? だっけ」
「あっ」
「まさか?」
「はい……」
「そっちもかぁ」
「……」
「ま、頑張りな」
「はい……」
妹に謎のエールを贈られたのだった……。
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