退院前
泣いて、ある程度落ち着いたので、
「香野、大丈夫だったか?」
と、聞いてみる。
「うん。あのあとに警察の人が来てくれたから」
「そうか……。感謝しないとな、警察の人に」
「うん。だけど、
『一番感謝すべきはあの男の子だよ、危険なことではあったけど勇気を出して立ち向かったんだから』
って警察の人が言ってたよ」
「教えてくれてありがとう」
「ううん」
本当に教えてくれてありがたいと思っている。俺の勇気を認めてくれたんだから。
「もちろん、私のヒーローも永山君だよ?」
「あっ、はい」
そう言われてしまうと弱い。
「健、左腕は全治どんくらい?」
「うーん、1、2ヶ月ぐらいとは言われたけど」
「うーん、となると青雲祭は出れるか分からないね」
「おい、何で俺が出ることになってる」
「え、1年では知らない人はいないよ? この噂」
「は?」
「だからー、生徒会長に勧誘されてたり、隼の球を中学時代唯一捕れたとか、それが理由でこの高校に入れたとか。他にもあるけど聞く?」
「いや、いい」
なんだ、その噂。10割当たってるやんけ。
「なに? もしかしてそれが理由で俺、ぼっちなの?」
「いや、それはない。絶対ない」
「そこまで否定せんでも」
「まあ、健は他に理由があるしねえ」
「なに? 隼まで俺をいじめるの?」
「いじめてないよ。ただ、客観的事実を述べただけさ」
「へー」
もういいや。てか、入学からの短時間でよくここまでひろがったなぁ。
あ、そうだ。
「そういやー、授業ってどんくらい進んだ?」
「あんまし」
「そうか、良かった。鈴、明日でもいいからノート貸して?」
「いいよ」
「サンキュ」
それで、3人は帰っていった。
後から雪に聞いた話だが、香野の家族は俺の意識が戻ったと聞いたときに、会わせて欲しいと俺の両親に言ったそうだ。
けれども、『多分うちの息子はそうゆうこと好きじゃないんで、お気持ちだけ頂きます』と、言ったそうな。よう分かってらっしゃる。
翌日の朝、検査をして問題無かったので退院許可が出た。
退院のための準備をしていると、隣のベッドの人が声をかけてきた。青春だー、とか言ってた人だ。
「あ、あのー、永山さん」
「え、はい。何ですか?」
とても、可愛らしい声だった。
「えーと、多分もう少ししたら会うことになると思うんで挨拶しておきたいと思って」
「と、言うと?」
「えーと、永山さんって青岩高校の生徒さん、ですよね?」
「はい」
「そ、その。私もそこの1年で、高校の入学式に出れてなくて、だからそのー、友達になってくれませんか!」
驚いた。こんな事を言われるとは思ってなかったし、俺の高校を知っているという事もだ。
「えっとー。1つ、聞いていいかな?」
「どうぞ」
「何で、俺の高校知ってるの?」
「そのー、私、野球が好きで。県内に凄い投手がいるって聞いて、その投手が長谷川投手だったんで、だからその」
「うん、もう分かった。じゃ、スマホ出して?」
「え?」
「あ、もしかしてスマホ持ってなかった?」
「いえ。えっ、交換してくれるんですか? レイン」
「当たり前だよ。俺も、あいつら以外に友達いないし」
「ありがとうございます!」
「そんなお礼言われることじゃないよ、もう友達なんだし」
そういうと、その人は、ぱぁっと笑った。
綺麗だった。
レインを交換してからその人は、
「あ、自己紹介忘れてましたね。」
「あ、そうだね。俺からでいい?」
「はい」
と、言われたので俺は簡単に自己紹介をした。
「じゃあ、次は私の番だね。青岩高校の1年4組、永山君と同じクラスの出席番号15番、」
そこで、「彼女」はいったん切った。
それから、
「須藤明里です、一応、女の子やってます」
と、とびきりの笑顔で言ってきた。
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