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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
最終章
66/71

これからは平穏な日が続く、はず

 公聴会は大成功であった。

 テレビに映った誠司が「許します。」と微笑んだだけで聴衆が納得した事は信じがたいが、とにかく誠司は警察と和解して警察は公衆の面前で誠司に頭を下げた。


 都議の弟の話では、警視庁の銃の新調用の予算が通ったとの事だ。


 誠司のディナーショーの一部始終映像を、公聴会の非公開部分で流したのだ。

 古い銃が暴発して地念字が大怪我する有様など目にしたら、警察の銃の新調など当り前すぎる急務だと感じたはずだ。


 まあ、銃型の爆発物でない限り、あのような爆発は無いけれどね。


 なかなかに素晴らしい作品であり、あれが成功したのは長谷が藤堂を用意してくれたからであろう。

 藤堂は、俺の為に俺から危険物を俺に知られないうちに取り除いたり、勝手に俺のポケットから危険物を交換できる技を持つのである。


 また、地念字の愛用している銃について、長谷が今回だけは嘘も無く本当を教えていてくれて、本当に良かった。

 銃型の爆弾を作って地念字にそれを暴発させたい、そんな俺の正直な気持ちを長谷にぶつけたから、彼も真摯に応えたくなっただけなのかもしれないが。

 人間素直が大事なのかもしれない。


 捜査二課の地念字は、俺の爆弾を俺が意図したとおりに爆発させ、誰も殴れない右手となり、顔には罪の印となる大火傷を負った。

 幼い子供に性的な悪戯をしていた男とも聞いていたならば、そのぐらいの仕置は必要だと俺は考える。


 そして地念字の部下達は、職を失った上に、白狼団の怒りの報復を受けての全員が病院送りだ。

 彼らはこれで知ったはずだ。

 暴力はさらなる暴力をわが身に引き寄せると言う事を。


 これで一段落で一先ずは安心だが、俺は公聴会からの流れに台本があったのだと確信した。

 台本を書いた奴は、誠司を違法逮捕して警察署に留め置き、そこに警察庁が間に入り違法逮捕を咎め、旧態の警察組織への発言権と執行力を強め、なお且つ凍結された予算を誠司との和解にて解凍させる予定だったのではないだろうか。


 誠司が受けた大怪我は、上からの命令の読みを間違った馬鹿共が、踊り過ぎての結果だった気がしてならない。


 俺に動くなと更紗を戻した男は誰だ。

 どこまで知っていたのか、関わっていたのか。

 長谷は俺の親父と繋がっていたのだと怒りを覚えながら思い返した時、誠司の言葉が頭に浮かんで俺の怒りを空しいものへと変えた。


「ハセちゃんねぇ。あの人は悪人を装うけど甘くてフラフラだよね。」


 俺はやるせない気持ちで居間に眠る誠司の寝顔を見つめ、公聴会で読み上げられた誠司の生い立ちという名の彼の秘密が思い出された。

 長谷が俺に伝えた、母親が弟を道連れに橋から飛び降りたという、あれ、だ。


 誠司は孤児が誕生日を憶えている筈はないと嘯き、正月が誕生日だと俺達に言っていたのである。


「君は二月五日が誕生日だったのだね。それでその日が過ぎるまでお母さんに会えなかったんだ。駄目になった自分を見捨てられたらって不安だったのかな。そんな辛い記憶を、これ以上自分の誕生日に重ねたくないものね。」


 誠司は俺の言葉にもピクリとも動かず、大きな体の成人なのに子供にしか見えない寝顔をして猫と一緒に布団に転がっている。

 手術をしてまだ五日目なのだ。

 昨日の早朝に自宅療養の許可が伊藤から出て、彼は我が家に戻ってきたばかりなのである。


 手術は当たり前だが伊藤が執刀し、助手に小枝子が入った。

 相良が伊藤に誠司を任せた事も驚いたが、小枝子を助手に伊藤に薦めたのが田辺という所にもっと驚かせられた。


「小枝子さんは評判のいい外科医だったそうですよね。廉ちゃんは外科医は毎日切っていないと腕が錆びると。彼女はそれで相良さんの持って来た職を断ったのではないですか?かれこれひと月は外科仕事をしていないでしょう。」


「君は本当に流石だよ。」


 田辺の考え通り、助手であっても久々の手術に小枝子は狂喜し、そして伊藤の腕前に感銘を受けすぎて伊藤の診療所に居座ってしまった。

 弟子入り所か押しかけ女房だ。

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