芝居には裏方仕事がつきもの
誠司のディナーショーが表舞台というならば、田辺に任せた七人の刑事への罠は裏方仕事と呼べるだろう。
二台の無線機を駆使して、田辺は白狼団を動かして、誠司を痛めつけた刑事達にサルカニ合戦のサルの身の上に叩き落とすべく罠を仕掛けているのである。
まず、スタジオを出たところでスタートとなる。
木下と鳥居は銃が玩具だと簡単に告白し、地念字さえ潰せば誠司は安泰だよねと、気さくに刑事たちに話しかけた。
「知っている?あそこには、衆議院議員の奥様や、参議院議員の奥様が、相良誠司を守ろうとひしめいていたんだよ。」
「まさか。」
「本当。それでさ、君達を助けたのは、ええと、今後は誠司にさ。」
「ああ、わかった。こっちこそ悪かった。ああ、そうだよ。全部地念字刑事のやった事でさ。こっちには上司の命令を拒否なんかできないだろ?」
「そ、そうなんだよ!」
木下達に解放された刑事達は、自分達に銃を向けた木下達を逮捕するどころか、たった今聞いた情報に慌てふためき、とにかく自分の進退の為に走り出した。
急いで地念字以上の上司に相談しなければいけない。
きっとこんな風に自らの思考によって煽られていた事だろう。
エントランスに向かうべく廊下をひたすらに走るが、廊下には来た時には無いはずの撮影用の機材が壁のように積み立てられ、そこに順路の看板が置いてあった。
非常階段から二階に行き、二階の廊下を渡ってその先にある階段を下り、エントランスホールに向かう様にとの指示だ。
「どうします?」
「外に出なけりゃならないんだ。行くぞ。」
彼等は深く考えずに非常階段に飛び込むが、二階のドアは施錠されていた。
「畜生!上か!」
三階のドアも開きはしない。
結局は屋上に続く階段を駆け上がることになった。
しかし、この扉には鍵がかかっておらず、彼らはドアがここまで開かなかった事でかなりの鬱屈を感じていたのか、ドアを開けるやドアの向こうへと思いっきり飛び出した。
しかし、濡れたスラブは滑るものだ。
オイルが混ぜ込んであれば尚更に。
七人の内飛び出した三人は大きく転がり、屋上の真ん中にまで滑って行った。
「うわあ!」
「ちくしょう!」
しゅん。
転がった刑事達はマッチを擦ったような音を聞き、その方角に一斉に視線を動かし、そこで全員が恐慌に陥った。
人がいないはずの屋上で、突然に青い炎が燃え上がったのだ。
そして、それが一気に広がり、転がっている自分達を舐めようと向かってくる。
「うわ、あああ。」
「た、たて!」
「に、逃げるぞ!」
急いで飛びあがった三人は、躓き転がりながらも屋上のドアへと戻り、しかし、濡れて滑る足はビニル系の床タイルではさらに滑った。
戸口に飛び込んで来た三人は、戸口にいた四人を突き倒し、抱き合う形で二人は階段を下へと転がり落ちて行った。
「大丈夫か!芝山!二見!」
同僚を救おうと飛び出した男は、同僚が落ち切った階段の踊り場に着くや、彼に向かって投げられた白色のものによって壁に思い切り叩きつけられた。
べちゃ。
「服部!」
下方から飛んで来た餅のような物が服部と呼ばれた男の体に纏いつき、その粘膜を服部は顔から取り除こうと指先で剥ぎ取った。
「ぎゃああ。」
服部が粘膜を剥ぎ取った時に、頭皮からごっそりと髪が抜けてしまったのだ。
服部の体から粘膜は下に落ち、階段の踊り場で痛みに呻いている男達にも降りかかる。
「ち、ちくしょう。なんだこのとり餅は!」
「く、くるなあ、お前のそれを俺に落とすな!」
「何だよ、二見ってわああ!」
服部は二見に足を蹴られ、そのまま階段を落ちて行った。
そこで彼らの聞き覚えのありすぎる声の笑い声が階下から響いた。
「ははははは。」
「畜生!長谷だ!」
「長谷か!」
すぐ下の階でドアの開閉音が聞こえた。
「三階だ!三階に出やがった。囲むぞ!西山と阿部は屋上を渡って三階に降りろ。俺と木部はこっちの階段から長谷を追う。」
階段の踊り場で気絶している同僚を見捨て、男達は自分達をこのような目に遭わせた男へ憤怒で駆け出した。
駆け出した時には、長谷巡査部長を潰せれば自分達の未来も元通りになるような、そんな錯覚にも陥っていた。




