第二幕しかないが、カーテンコールは不要だ
スタジオにはカギがかけられた。
部下が地念字の助勢に入れなくなるというのに、地念字は自ら鍵を掛けて誰もスタジオ内に入れない状況を作った。
それもそのはず。
ゆっくりと振り返った地念字の右手には、古い型でも銃があったのである。
彼はそれで誠司と藤堂に狙いをつけながら、再びひな壇へとぶらぶらという風に歩いて近づいていった。
「お前らは終わりだよ。芸能プロダクションの社長?それから、不良の矢野。良い組み合わせだな。麻薬を売ってさばくには、良い組み合わせだよ。隠し持っていた銃で殺し合いという結果とはね、笑いが出るよ。」
そう言った後に地念字は上着のポケットから粉の入った袋を取り出すと、それを藤堂に放った。
「相良のポケットに入れろ。」
「こんなことをしても、誠司君に罪を被せられませんよ。」
「そうよ!誠ちゃんの無実はわたくしが分かっておりますもの!」
なんと、秋山は逃げるどころか誠司を庇って立っている。
何かあったらひな壇の後ろのドアから逃げろと全員に伝えていたはずなのにと、俺は一瞬頭を抱えたが、ひな壇には誠司いたのだ。
誠司は秋山の手の甲を突き、自分の椅子の後ろにしゃがむようにと笑顔つきで秋山を誘導してくれていた。
「まあ!誠ちゃあん!駄目よ。わたくしが守って差し上げます!二度とぉ、あなたを酷い目には遭わせませんわ!」
俺はこんな作戦を立てた自分を罵っていた。
「安心しろよ、お前も一緒にあの世に送ってやるよ。バカが。金を払わずに逃げようとした矢野を社長さんが撃ち殺した事にしようと思ったが、痴情のもつれって奴もいいなあ。さあ、どっちにする?手を貸すんなら、お前には泥は被らねえようにしてやるぞ?ハハハ。」
「こんなに目撃者がいる場所で?」
「ああ?」
藤堂は地念字に向かって指をさし、地念字はゆっくりと後ろを振り向いた。
ばさん。
スタジオの暗幕は落された。
暗幕で隠されていたそこは、円卓が水玉模様に並ぶディナーショー会場であり、暗幕内の会場にいた着飾った女性達は、誠司の座るひな壇での出来事を、三か所に置かれたテレビで見つめていたのである。
「な、ななな、なにが!」
「普通に相良誠司を囲んでの秘密のディナーショーですよ。竹ノ塚参議院議員の奥様が発起人で、お友達をお集めなさっての会合です。」
テーブルの一つには父に買ってもらった泥大島で着飾った母がおり、にっこりと笑いながらひな壇に向かってひらっと手を振った。
もちろん、誠司をそんな恐ろしい会に一人で参加させたくない相良が、我が母の隣に座り、誠司ではなく俺に殺気の籠った視線を向けている。
誠司は吹き出し、地念字からは獣みたいな音が弾けた。
彼はここで終わりだ。
着飾った婦人達は全員この茶番の目撃者であり、また、彼女達の着飾り方から、彼女達が金のある家の人間だと一目でわかるというものだ。
地念字以下の刑事達は、みすぼらしい服を着た一般女性を突き飛ばすことはできても、金持ちに見える女性には触れる事も出来ない矮小な人間なのである。
「な、何を?」
地念字は動揺した声を出し、そこで俺も席を立ち、真っ直ぐに地念字にむかって歩いて行った。
地念字は金縛りにあったようにして、自分に近づく俺から目線を外すことも出来ないまま立ち尽くしている。
数が無ければ人に暴力を振るえない男は、顔に痣がある男などは怖いだろう。
いや、俺の手に握られた長い杖が怖いか?
そうだな、杖の形をした単なる鉄の棒だものな。
鉄の棒でしかないが、刃物を仕込んだ仕込み杖にも思えるよな?
「う、うっごくな!」
俺はさらに歩を早めた。
「動くな!」
パアンと破裂音がして、地念字はそのまま倒れた。
俺は自分の上着を脱ぐと、その上着で地念字の上半身に巻きつけた。
銃の暴発により、右手と上半身は酷い有様だ。
上品な貴婦人様方には見せられるものではない。
藤堂は屈んでいる俺の上で大きく溜息を吐いて、俺の悪戯に散々付き合わされた時のように、何も言わずに地念字の後始末のために手を出した。
俺は全部終わったはずだと誠司を見上げれば、誠司は苦虫を噛み潰した顔という、皺くちゃにした顔で俺を睨んでいた。
誠司を守ると頑張ったご婦人、秋山衆議院議員の奥様が、誠司の膝に乗った姿で誠司にしがみ付きながら気絶していたのである。




