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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
二十 汚職刑事の茶番劇
62/71

第一幕

 刑事の最初の罵倒で、藤堂守とうどうまもるは簡単に立ち上がった。

 隊の中でも常識的で、その義憤溢れる人材だからと、田辺が俺の身辺警護として彼を選抜して隊に連れて来たのだ。


 同じ赤紙組でも、使えないからと我が隊に押し付けられた梶と違い、藤堂は流されたわけでもなく、田辺に見いだされたばかりに俺の隊に組み込まれたという、実は不幸な男でもある。

 そしてその不幸な男は、持ち前の正義感に裏付けられた義侠心によって、俺が託した青年を守るべく刑事の前に立ちふさがったのである。


 興行の際に、みかじめ料をせしめようと脅してくる地方ヤクザに立ち塞がるようにして、藤堂は誠司を守る壁となった。

 今回はか弱き歌手ではないが、自分で歩くこともままならない青年を刑事に手渡すものかと、弁慶の如く立っているのである。


「邪魔をする気か?公務執行妨害で逮捕されたいのか?」


「逮捕状は?何もなく事件も起こっていない所に立ち入るのは不法捜査です。なによりも、日が落ちている。令状も無い警察が押し入れる時間ではありません。」


 日頃温和だろうが、藤堂は立ち上がれば一九〇近くあるのだ。

 地念字刑事は大きく偉そうに振舞っていても、一八〇どころか一七〇程度の背丈なのである。

 体格さのある藤堂に見下ろされ、法的に無力でもあることを指摘された男は、そこで立ち止まって顔を真っ赤に染めるしかない。


 けれども、地念字には人生が掛かっている。

 明日には停職の命令が下り、その後の復帰どころか、辞表を書かされるだろう身の上なのである。


 警察のしっぽ切りだ。


 だからこそ俺は、その尻尾を切るナイフを、錆びついたものに変えてやるのだ。

 切った方も切られた方もじくじくと痛む、そんな錆びついたナイフへと。


「藤堂さん、刑事さんをこちらへ。俺のポケットを探って貰えば、俺が麻薬も何も持ち歩いていないってわかるでしょう?そうしたら刑事さんもお家に帰れる。ね、さっさと終わらせてしまいましょうよ?」


 藤堂は大きく誠司に振り返った。

 誠司は怪我などしていない風に両腕を開いて見せ、インタヴュアー席に座っている秋山は完全に誠司の虜となった顔をしていた。


 いや、この場にいて、誠司を注目していた人達は、誰もかれもが誠司の笑顔に魅了されて誠司の腕の中に飛び込みたいと考えたはずだ。


 地念字以外は。


「この男娼が!薄汚い売春婦の息子が!お前みたいな奴は、悪事に手を染めているって誰もが思っているんだよ。ハハハ、いいぜ、調べてやる。お前は体中に麻薬を仕込んでいるんだからな!」


 地念字は一歩踏み出し、その足を藤堂は軽く横に払い、よろめいた地念字を支えるようにして藤堂は地念字を拘束した。


「大丈夫ですか?そんなに足元をよろけさせるなんて、あなたこそ酔っているか、麻薬でもなさっているのでは無いのですか?」


「ふざけるな!貴様が!おい、とにかく矢野を!」


 藤堂の腕の中で、地念字は自分の部下達に声を上げながら振り向き、部下の誰一人として地念字の命令を聞く事が出来ないことに気が付いた。

 動けはしないだろう。

 地念字と一緒に入って来た部下達は、銃を構える男二人に追い立てられ、スタジオの外へと後退っているのである。


「な、銃を!どうして!お前らどうして抵抗しない!」


 地念字の叫びに、部下の一人が言い返したが


「銃ですよ!何を言っているんですか!」


「銃ぐらいどうした!死んでも動け!」


「嫌ですよ!」


「この馬鹿野郎どもが!ここで矢野を潰さなきゃ、俺達は失職だろうが!」


「死ぬぐらいなら失職したほうが良い!大体、矢野がいけ好かないから痛めつけろって言ったのはあんたじゃないか!」


 そこで、地念字達の部下は全員スタジオの外に出され、スタジオのドアはガチンと大きな音を立てて閉まった。


「畜生!放せ!お前らは全員殺してやる!」


 藤堂は簡単に地念字を手放し、誠司の盾になるように一歩下がった。

 しかし解放された地念字は誠司の元に向かうどころか、踵を返してスタジオの扉の方へと駆け去った。

 そして、扉の向こうに追い立てられた仲間を助けるどころか、スタジオの扉に鍵を掛けたのである。

 カチッと内カギのかかった音が響き、次に男の低い笑い声が上がった。


「はははは、馬鹿が!」

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