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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十九 我が舞えば 影が狂乱する
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違和感が大忙しのスタジオ

「あなたの過去を語って下さい。」


 単刀直入すぎる上に漠然とし過ぎた質問に誠司は答えるよりもまじまじと相手を見つめてしまった。

 しかし誠司の隣に座る誠司よりも大柄な男が、そんな誠司の代りのようにして、軽くハハハと笑い声をあげた。


小原こはらサン、ガッツき過ぎですよ。インタヴュアーだったら、もう少し質問を考えましょうよ。」


「いえ、あの、緊張しちゃいまして。でも、困ったお顔も素敵ですね。」


 誠司はまたも小首を傾げた。


 おかしい。


 誠司は先日の違法逮捕に尋問室で受けた暴力行為を、この竹ノ塚が手配したインタヴューにて語ることになるのかと思っていたが、インタヴュアーとして誠司の前に次々に現われてくるのはどうしても記者に思えない女性ばかりなのだ。

 女性だから記者に思えないのではなく、明るいスーツに胸元にコサージュまで飾っている姿の人や真珠のネックレスを飾ったドレス姿の女性など一様に着飾っているという、それも彼の母親世代の方ばかり、だったからである。


 現在目の前の記者、小原と名乗った女性は、紺色であるが光沢のある生地で作られたスーツ姿であり、首元にはメノウと象牙ビーズで作られたネックレスを飾っていた。


 やはりおかしい、と誠司は周囲を再び見回した。


 誠司と誠司のボディガード兼介助人として木下と鳥居がスタジオに入って案内されたこの場所は、誠司も木下も想定していた場所とは違っていたのである。

 そこは普通に撮影所らしき大きなスタジオでもあるのだが、そこをカーテンで幾重にも仕切って小部屋を作り上げている息の詰まりそうな場所だった。


 仕切られている暗幕の向こうから、何とも言えない存在感を誠司はひしひしと感じているのだ。


 また、違和感はそれだけでない。

 誠司がインタビューを受けているところは、結婚式の主役達が座るような段差が作られており、ティーテーブルには花が飾られ、テーブルの半周だけに一人掛けソファが三つ並んでいるというものだった。

 暗幕で仕切られた狭い空間に、インタヴュー用のひな段が豪華に作られているという不可解さに、誠司は何とも言えない違和感ばかりを感じていると言っても良い。


 さらに、誠司はひな壇の華やかすぎるそのソファに座らされた後、インタビューを散々に受けているのだが、インタヴュアー達の質問は、誠司の好きな色だったり音楽だったりと、違法捜査には全く関係ない事ばかりである。


 違和感を感じない方がおかしいと、誠司は作り笑顔のままウンザリと考えた。


 このスタジオに着くまでに警察の襲撃があり、それをかわした後ももう一戦あるらしいと竹ノ塚の振る舞いを見て分かってはいるが、誠司はその作戦について何も聞かされていないのである。

 そこで友人達は知っているのかと思い立ち、誠司はひな段から離れたところに立っている友人達を見返した。


 けれども誠司がそれで知った事実は、鳥居と木下がカナッペらしきものを摘まみながら二人で談笑している姿という更なる不可解な現場だった。


「あれ?どっから飯を?」


「では秋山さん。せっかくですから、ちゃんとした質問をどうぞ。」


 誠司の隣の男性が、またもや優しい口調でインタヴュアーに促し、誠司はハッとして再びインタヴュアー達に視線を戻した。


 小原さんが秋山さんに変わっている!

 今度はピンク色のツィードスーツの人だった!

 と、誠司は笑顔のまま生唾を飲み込んだ。


 インタヴュアーと誠司の間のソファに座って司会か誠司のマネージャーのようなことをしているのは、竹ノ塚から戦友で部下だったと紹介された男性だ。

 藤堂守とうどうまもるは、敏腕でヤクザよりも怖いと噂話で聞いた事のある大手プロダクション社長はずだと、誠司はしみじみと藤堂を見つめた。


 誠司のマネージャーのように振舞う藤堂には温厚さしか見あたらず、誠司は彼の横顔を眺めながら、竹ノ塚に紹介されながら誠司の目の前で竹ノ塚に対してびくびくしていたと思い返していた。


「俺は藤堂さんの過去が知りたいな。竹ちゃんと仲が良かったの?」


 藤堂はびくっとあからさまに肩を震わせ、ブリキ人形のように強張った動きで誠司を見返した。

 藤堂の真ん丸に大きく見開いた目は単に驚いているだけで、誠司は自分の主治医となっている伊藤と同じく、彼が誠司が生意気でも子供にするみたいに流すだけなのだろうと感じた。

 感じただけでなく、藤堂から何の暴力性を感じないことを不思議に思っていた。

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