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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十九 我が舞えば 影が狂乱する
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警部以下八名

 車は高価なものである。

 二台も覆面パトカーとして支給されておきながら、その大事な一台を大破させたとあっては、捜査二課は完全に終わったも同然だ。


「いや、捜査二課はこのまま存続するが、自分と部下八名が失職することは確実だ。」


 地念字ぢねんじ警部は心の中で呟きながら歯噛みした。

 すると彼の頭の中で、捜査一課の憎い男の顔の笑顔が浮かんだ。

 地念字よりは下の階級でしかないくせに、地念字を常に下にしか見ない眼つきの男だと、地念字が常々毛嫌いしている刑事の顔である。


 地念字とはほとんど接触が無かったはずのその刑事は、取調室で矢野を尋問中である地念字を談話室に呼び出すや、小馬鹿にしたような目線で射貫き、地念字の耳に地念字の過去を耳に囁いたのだ。


「君は子供をいたぶるのが殊の外好きだよね?脅えた顔が好きなのかな?それとも、仕返しも出来ないと屈辱に耐える顔の方かな?」


「何を貴様は!」


「臆病者の変態って話だよ。怖くて大の男は殴れない男の話さ。」


 気が付けば彼の拳は、捜査一課の色男の顔を殴っていた。

 地念字は周囲にいた同じ警察官に取り押さえられ、殴られたはずの男は地念字が人払いをしていたはずの取調室へと大声をあげながら走り去っていった。


「第三取調室を開けろ!違法捜査だ!同じ泥を被りたくなければ開けろ!」


 長谷はわざと衆目の中で自分を殴らせ、地念字が拘束されている間に地念字が痛めつけた相良のツバメを解放してしまったのだ。

 地念字のポケットにヒロポンの錠剤を忍ばせた上で!


 地念字はそこで頭を振った。

 起きたことを思い出しても仕方がない。

 自分の捜査が違法でないと証明できれば良いだけなのだ、と。


「おい、動ける奴は何人だ。怪我をしているものはここに残って事故の後始末。残りは麻薬密売人の相良誠司の確保に動く。相良をしょっぴいたら、長谷の名前も唱えさせるぞ。」


「次は睾丸を潰しちゃいましょうか。足を捩じっただけで、小便を垂らした所は情けないったら無かったですね。」


「ハハハ、次はママって呼ばせるか。」


 地念字は部下達の気力が衰えていないと自分の気力が振るい立たせられ、相良が向かっているだろうテレビスタジオへと歩き出した。


「あれは社会の屑だ。見た目が良いからって、ババアの足の裏だって舐めてのし上がって来ただけの、男の風上に置けない奴だ。潰すぞ。」


 そう、何も言わないうちに、相良は潰さねばならないのだ。

 地念字は新たに決意を固くした。

 相良は地念字の性癖を知っており、週刊誌の特集から彼は自分がいつ魔女狩りの魔女にされるのかと不安に慄いていたのだ。

 そこで麻薬の密輸の疑いととして監視していたところ、所轄刑事でしかない風間が女の色香に惑わされて、相良を違法逮捕してしまったのである。


 地念字は風間が矢野を逮捕して来た時には、天の助けだと狂喜した。


 そこで二課の尋問室に矢野を押し込め、あとは尋問中の自殺にでもして終わりになるはずが、警視庁の周囲には女達の壁が出来、矢野を逮捕した風間が違法逮捕どころか一般人宅に強盗に入ったとの報だ。


「相良をしょっぴいたら、あの長谷も潰すぞ。あいつこそガンだ。」

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