逢魔が時の攻防
李白 月下独酌より
(正)我舞えば 影凌乱す
私が舞えば私の影は地面で入り乱れる
章題は、独り酒の李白が月と自分の影を飲み友達にして詠んだ詩の一文を捩りました。
竹ちゃんが舞えば、竹ちゃんの部下達も舞うのです。
二月十三日の月曜の夕方、十八時を過ぎたぐらいの時間、街道では人知れずの車による攻防が行われていた。
相良誠司は療養していた先から本社に出向いて企画展のオープニングと土日での売り上げの報告を行い、その後、千代田にあるテレビスタジオにて秘密のインタビューを受ける予定であった。
秘密と言っても誰もが想像し予想していた行動、警察組織への告発のための地固めであることは明白だ。
しかしながら、歩けない誠司を乗せた社用車は目的地に辿り付く前に、二台の黒塗りの車によって時々追突されながら進路の邪魔を受ける事になった。
ぴったりと後ろをつく車からは常に追い立てられて、何とか逃げ込んだ番町門人通りでも、狭い道であるというのにもう一台に並走されて進路妨害をされてしまったという有様だ。
曲がることが出来なくなった車は、終には目的地を通り過ぎ、番町文人通りも終わりとなる。
「計画通りですね。」
「嬉しそうだね、田辺は。」
俺が隣に控える男をちらりと横目で見れば、田辺は肩に担いでいた俺の試作機を構え直し、銃に備え付けてある望遠レンズに片目を当てた。
田辺のお気に入り銃、シュミット・ルビンM1889を俺が改造模造したシュミット改である。
本元の銃と同じく弾芯を金属で覆い貫通力を高めたフルメタルジャケット弾も撃ちだせるが、そんなものを人通りが無いと言っても、街中で撃ちだせるはずもない。
今回も単なるペイント弾となるが、誠司の乗る車を目的地に辿り着かせるのが目的であるので、これで充分なのだ。
俺は再び望遠鏡の視界へと集中し、俺達が計画通りと言い得た通りに、黒塗りの車の動きが変わった。
誠司の車が大通りに逃げ出す前に、決着をつけようと相手も考えたのだろう。
誠司の車を道なりにある石の塀に横からぶつけて停止させようというのか、狭い道で並走していた黒塗りの車が、勢いをつけるために誠司の車から下がったのである。
「撃て。」
ガチン。
ライフルによる銃声は、きっと誰の耳にも残らなかっただろう。
俺の作ったペイント弾は、目的物、この場合は警察の覆面パトカーだが、そのフロントガラスに撃ち込まれた。
ペイント弾には金属ナトリウムも仕込んである。
つまり、その特製弾丸には、小爆発と発火というおまけがついているのだ。
「えげつないけど、楽しいと思っちゃいますね。」
「だろう?」
弾丸はフロントガラスに当たればペイントをまき散らすが、ペイントの水分によってナトリウムが水素を発生して発火するという寸法である。
当り前だが、そんなものをフロントガラスに受けた運転手が、フロントガラスが壊れなくとも冷静でいられるはずは無い。
大きくハンドル操作を誤り、誠司の車に受けさせようとした末路、大きな大使館の壁に誠司の車を体当たりさせての走行不能、を自分達で実践していた。
恐らくも何も、この金属が擦られてひしゃげた音があたりに大きく響いたことで、俺達の銃声こそ事故の衝撃音だと近隣住民が思い込んでくれたはずだ。
後続の車は仲間の車の大破によって、ブレーキ音を響かせて停車した。
そして、拘束車が消えた誠司を乗せた車は、今がチャンスとスピードを上げ、俺達の目の前を滑走していった。
「よし。誠司の車は逃げ切ったぞ。すごいな、南君は!相手を上手に交わしながら、俺の指示した場所にちゃんと連れて来た。」
「ハハハ!あいつらは自分達が招待されていたなんて、今だってこれっぽっちも考えてもいませんよ。では、第二会場に。」
俺達は後部ドアを閉めると、それぞれ運転席と助手席に乗り込み、俺は急いで車のアクセルを踏んだ。
さああ、第二会場だ!
ここが本当のパーティ会場なのである。




