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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十七 秘宝館で秘密が綻ぶ
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冤罪が起きた理由?

 無作法な突撃客を誠司は笑顔で受け止めた。

 その素振りは、俺の左横にいる母によると。


「王子様みたい。」


 だそうだ。


「ありがとう。貴方が心配してくれたお陰で、僕の怪我の痛みが減りましたよ。」


「あ、ああ!ごめんなさい。私ったら、本当にごめんなさい。」


「かまいませんよ。誰だって思わずってあるでしょう。せっかくいらっしゃったのですから、今の出来事は忘れて楽しんで下さい。」


 誠司に手を離された女性は何度も誠司に頭を下げた後、おぼつかない足取りで会場の方へと入って姿を消した。

 すると、再び周囲できゃーきゃーきーきーと大騒ぎが巻き起こった。


「なんて優しいの!」

「なんて紳士!」

「私も!誠ちゃんに手を握って欲しい!」


 誠司の起こした旋風に親友の木下でさえ驚き顔だ。

 しかし誠司につつかれて、彼は驚き顔のまま耳を寄せて、二人でなにやら相談事を始めた。

 すると、木下が近くにいた小杉を呼び寄せ、場所を交替するとどこかに消えた。

 何かあったのかと、俺は杖を握り締めた。


「どうぞ、パンフレットです。」


 美しい妻が俺にパンフレットを差し出した。

 何かが挟まっているからとページを開いて見ると、「もう鼠は捕りません。」と書いたメモが挟まっていた。

 俺は嬉しくなって妻に顔を寄せて囁いた。


「後の三つはバレないようにするんだよ。」


 彼女は俺の魂が蕩ける様な微笑を顔に浮かべた。

 彼女の胸元には俺が贈ったバロックパールのペンダントが煌めいている。

 妻は矢張り俺にとっての一番だ。


 俺は杖を左手に持ち替えると、更紗の肩に右手を伸ばしたが、更紗が俺から向きをさっと変えたので、俺の右手は宙を浮いたままとなった。


「お母さん、来てくれてありがとうございます!」


「サラちゃんのイラストは素晴らしいわ。本物も会場に飾ってあるのかしら?」


「ほら、前が閊えているぞ。」


 誠司が俺達の側まで車椅子を動かして来ていた。


「あぁ、誠ちゃん!」

「きゃあ、誠ちゃん!」

「誠ちゃん!誠ちゃん!こっちを、見て!」


 誠司は嫌な顔ひとつもせずに客達に愛想を振りまくと、きゃあきゃあうるさい悲鳴で辺りが騒然とした。

 小杉が慌てて間に入ってくると、団子になった客をさばいて会場へと誘導し始めてくれた。


「今度はお前が障害物になっているな。凄いな、お前。どうしてそんな風に皆の誠ちゃんになっちゃったの?知り合ったばかりは世間でこんなに騒がれていなかったよね。」


「あ、そういえばそうだよね。どうしてだろ。最近急に、だよね。」


 毛皮のコートを着て、頭にもお揃いの毛皮の帽子を被った男が、腕を組んで小首を傾げて考え込みはじめた。

 厳つい顔に戻った彼は、畜生、普通にハンサムな男だ。

 そんな彼にうっとりした客が再び団子になり、カメラマン達がフラッシュを焚いている。


「十一月の洋行帰りに空港で写真を撮られてからよ。元々は要人の記事でしかなかったのですけれどね、後ろに写るこのハンサムさんは誰って大騒ぎになって、次の週には特集を組まれたの。その時の記事に愚連隊時代の逸話も紹介されていたわね。」


 俺達に存在を忘れ去られていた誠司ウォッチャーが、しれっと答えた。


「え?そうなの?全く知りませんでしたよ。百花さん、記事はどんな風にって、百花さんには僕がろくでなしだってとっくにバレていたのですね。」


 誠司が悪たれそうな笑顔を俺の実母に向けると、初恋の人に顔を赤らめるが如しで、母は父という配偶者がいることも忘れた風情で語り始めた。


「あら、そこが素敵って尚更人気者になったのよ。記事に載っていた町の人の声ではね、皆を守る正義の味方の白狼団の頭領って褒めるばかりだったわよ。怖いけど優しいって理想の男性像よね。それにしてもあの刑事は許せないわ。子供のあなたを意味も無く殴ったりしていた男がいたのでしょう。記事では何某氏って匿名でしたから、義憤に駆られた沢山の苦情が警察になされたそうですよ。」


 母の言葉に、俺と誠司の目が合った。

 俺達は今回の出来事が、その週刊誌の記事がきっかけではないのかと気がついたのだ。

 警察に恨みを買った誠司をいたぶるための冤罪逮捕か?

 警察組織はそんな無能か?


「そうそう、主人が申しておりましたわ。誠ちゃんの記事から警察官の違法捜査の他の事件の報道もいくつかなされて、警察の予算編成で申請していたものが通らなかったって。」


「母さん。本当に皆の邪魔になっているから会場に入ろう。見回って楽しんで、それからあとで誠司君を僕達で独占しようよ。いいよね、誠ちゃん。」


「勿論ですよ。百花さん、お兄ちゃんも、あとでね。」


 誠司は悪そうな顔でにやっと嗤った。

 しかし、カメラのフラッシュによって影が消え、どこからどこまでも映画俳優のような素晴らしい笑顔でしかなくなった。


 きぃやああああああああああ!


 俺の母も含めて、ああ煩い!

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