俺のライバル
オリエント秘宝装飾展。
何が秘宝なのかわからないどころか、少し卑猥な語感もあるタイトルだ。
「猫輸送のための経費をこの企画で誤魔化していたのかと思っていたよ。」
「あ、そうか。その手があったのか、畜生!」
「何だ。真面目にちゃんとした別物の企画だったのか。」
「酷いな、竹ちゃんは。百貨店の販売促進のてこ入れだって、俺は最初っから言っているでしょう。」
彼は俺に憤慨して見せると、書類鞄から百貨店と企画展の資料と写真を出して説明し始めたのである。
説明する誠司の話を聞くに及んで、一々頷くを得ないという、かなりまともな考えの下に企画実行されていたことには驚くしかない。
「日本女性は公の場には着物の人が多いでしょう。でも、着物だと装飾品など着け辛いからね。そこでデザインを和風にした宝石を作らせたり、洋装でも手軽なデザインね。若い女性が買える手頃な値段で手軽な華やかな装飾品や小物を百貨店に並べさせたの。」
「それで、この企画展は何の役に立つんだ?」
「会場は一番上の階だからね。客を天辺に集めて、そこから下に降ろせば全部の階を廻るでしょう。そうしたら、一つや二つくらいお買い物をして貰えるし、お買い物をしたい気持ちになるように、海外の歴史的な装飾品や装飾品を飾り立てている像や絵画を飾ってあるの。男性客が宝石を買いたくなるようなエロチックなものもね。全裸美女に宝石だけっていいでしょう。モローの絵やクリムトの絵も持って来てある。エジブトの女王様のジャラジャラしたビーズのベルトは若い人に似合いそうじゃない?レプリカで作って販売しているから更紗にどうぞ。それから、完全に欧風よりも東洋風のほうが親しみがあっていいかなってね。オリエントって語感もいいでしょ。」
女一代で財を成したあの相良が、誠司に惚れて手放したがらないだけあったのだ。
さて、二月十一日、大安の土曜日、という本日。
誠司の企画したオリエント秘宝装飾展は無事に開催日を迎え、俺は母と一緒にオープニングに参加していた。
誠司が語っていた通りに、企画展にちなんだ売り物が各階に必ず用意されており、上階にエスカレーターで登りながら母が興味深く各階の看板に目を光らせている事から、彼の狙いが正確だったと認めるしかなかった。
誠司お薦めのベルトが売りきれると嫌だと、母が先に購入したことで、母を手の平で踊らせる奴は怖い奴だと震撼したほどだ。
その上、百貨店入り口付近で手渡されたチラシが、アールヌーボーのミュシャかクリムトを思わせる平面的だが煌びやかな美しいイラストで、その企画展が商業目的であっても学術的な催しに参加して来たような気にさせる素晴らしいデザインのものであったのである。
「誠司は絵的センスが無いと思っていたが、中々いいデザインですね、これは。」
「サラちゃんじゃないの。あの子はパンフレットの製作もかかわっているのに、夫のあなたが何も知らなかったの?サラちゃんは絵の才能がある子なのよ。」
「ははははははは。」
俺は彼女の才能が、ヌートリアだって美味しく調理できることしか教えてもらっていませんよ。
最上階に着いて見れば、会場前は俺の親父の演説会でもこんなに集まらないだろうという程の人で溢れていた。
そこで、これから客への開催挨拶をしようとする誠司を、俺達はその他大勢に埋もれて言葉通り首を長くして見守る事になった。
客の中に紛れて、カメラマンを連れた記者らしき者達までいる事にも驚きだ。
「見えない。誠ちゃんが見えない。あなたの迎えが遅いから!」
俺が迎えに行ってからも帯が決まらないと俺を待たせた母は、百貨店でもビーズのベルトを買うと売り場に走って俺を待たせた事も忘れて、手提げでバシバシと俺を殴ってきた。
俺は大きく溜息をつくと、母の腰を持って少し持ち上げてやった。
「僕の左肩に両手をやってしがみ付いて下さいね。」
そして母は誠司を見られると喜んでいるようだが、手助けしている息子には目もくれず、彼女の視線は車椅子で会場扉前にいる誠司に釘付けだ。
「もう、なんて可愛いの。毛皮のコートとスーツがあんなに似合う日本人男性は誠ちゃんだけよね。あのコートは耀子さんの見立てですって。」
「僕は毛皮を母親に買って貰ったこともなければ、着せて貰ったことも無いですけどね。」
バシッと母に肩を叩かれた。
「焼き餅を焼かないの。大人でしょう。」
俺が焼餅を焼いているらしい青年は、久しぶりのスーツ姿に、相良のオープンカーに乗る時の毛皮を羽織っての車椅子姿である。
そして彼が乗る車椅子は俺の製作したものではなく、両腕で動かせる車輪の大きな普通の車椅子だ。
あの婆は俺に対抗しているに違いない。
相良邸に王様の部屋を製作して、誠司の気を惹こうとしているのだ。
俺はアメリとリリカの為に、誠司を相良に奪われないように頑張らねばならないだろう。
あの子達が俺の妻に喰われたらどうする。




