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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十五 子供を守るのは大人の役目
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いつでも来い

 俺の煽りの言葉を受けて、田辺は明るい声を出した。


「それだけじゃないでしょう。もっと飲め飲めって酒瓶咥えさせて飲ませたでしょう。嫌がって逃げるのを捕まえて何度も何度も。その上で、コレは泥酔した僕ちゃんと君の酒の上の無礼講だって、服まで剥いで。裸踊りまでさせて。」


 そこで一斉に愚連隊共は大喜びだ。

 本当に男の子は裸になる話が好きだな。


「それで、上官をそんな目にあわせてこの方は無事だったのですか?」


 ただの青年の顔に戻った木下が、目を輝かせて乗り出すようにして俺に尋ねてきた。

 俺の隣に座る誠司は口元を手で押さえて笑い転げるだけだが、俺は誠司の笑う顔にホッとして、木下達に続きを聞かせてやった。


「酒の上でしょう。俺を告発したら彼は今までの悪行を告発されるでしょう。そして、その後も同じ行動を取れば俺と同じ事を周りがすると怯えてね、心身消耗を理由にして後方に逃げてしまったさ。俺は告発されての営倉入りを狙ったのにねぇ。」


「どうしてですか?」


「前線にいるのが疲れちゃってね。怖くて死にたいって毎晩神様に祈って、砲弾が飛んでくる中に入ると、どうか生き長らえさせて下さいって神様にお祈りするの。いい加減に疲れちゃったんだよねぇ。」


 俺は静かになったと、いや、静かにさせてしまったと、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちになりながらどんぶりに箸を入れた。


「旨いねぇ。田辺の丼は最高だよ。」


「お粗末さまでございます。」


「ねぇ、どうして。誠司にはありがとう言うのに、どうして俺にはソレなのよ。俺にも褒めた時はありがとうって言ってよ!」


 再び誠司はクスクスと笑い出したが、やはり顔が赤い。

 もう一度額に触ると、熱い。

 これは放っておけない熱さだ。


「田辺、伊藤を呼んで。それから君達、この馬鹿を横にしたいから申し訳ないが今日はここでお開きをお願いしていいかな。」


「えぇ、勿論です。誠ちゃん、お前はいっつも俺達に甘えないから、俺達も辛いよ。頼むから体の不調ぐらい言ってくれよ。」


 木下は誠司の肩に手を置いて、誠司はその手に自分の手を重ねて握った。


「ごめん。達ちゃん。俺は皆とわいわいするの久しぶりで、本気で嬉しかったからね。帰したくなかったんだよ。」


「馬鹿。誠ちゃんの馬鹿。また来るから。」


 今林が誠司の肩も軽く叩いてから玄関に向かった。


「そうだよ、帰ったらお終いじゃないだろ。また来るよ。誠ちゃんが呼べば毎日でも一日に何度でもね。だから安心して怪我を治せ。」


 神保は手のひらを誠司に向けて誠司はその手を軽く叩いた。


「うわ、本気で手が熱いよ。また来るから早く横になれ。誠司を横にするのを手伝いましょうか。」


「いいよ。神保君大丈夫。」


 彼は名残惜しそうにして、今林のように誠司の肩を撫でて台所を出て行った。

 その後も同じように心配して、必ず誠司に触れてから彼らは玄関へと出て行き、そして、最後に残った木下は俺と田辺に深々と頭を下げた。


「誠司を頼みます。」


「君も何かあればウチにおいでよ。」


 木下はがばっと身を起こして俺を驚いた顔で見返し、俺は誠司と同じように子供時代を失っていたはずの青年に微笑み返した。


「あの。」


「更紗が君の妹分なら、君達も俺の弟分でしょう。」


「は、ははは。そう言って頂けると。」


「本気で何かあったら、いや、無くても来てもいいからな。」


 木下は誠司と同じような顔、年よりも若くみえる子供のようなはにかんだ笑顔を一瞬だけ作ったが、すぐの再び頭を深々と下げてその顔を隠した。


「ありがとうございます。」


 彼は頭をあげると殆ど俺に顔が見えないようにして踵を返して玄関に向かい、俺は猫が外に出ては心配だという風にして後を追いかけ、青年達が帰っていく姿を玄関口から見送った。

 彼らは全てを失う覚悟で青森から戻って来たのである。

 俺は彼らに頭を下げた。


「にゃあ。」


 後ろを振り向いたら、アメリとリリカが階段下に下りていた。

 彼女達は俺の足首に体をこすり付けると、ぴゅっと台所に駆けて行った。


「ああ、逃げちゃった。」


 がっかりした声に驚いて振り向くと、伊藤が玄関口に立っていた。


「うわ!どうしているの!」


「呼び出しておいてそれですか?」


「すまない。誠司が酷い熱なんだ。それにしても早いね。」


「ええ、俺もあの子が気に入っているからね、心配なんですよ。だから、気兼ねなく呼んでくれてかまいませんよ。」


「猫付だしね。」


 伊藤はわはははと嬉しそうに笑い、俺を通り過ぎざま嫌な告知をしていった。


「足はこのままじゃあ駄目だね。」

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