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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十四 真相は知らない方が良い時もある
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え?

 幸次郎の五月蝿い笑い声を横に相良は俺達を叱りつけるが、更紗だっても黙ってはいない。


「罠の怖さを知っていればそんな事はしません。私の罠はお遊びではないの!戦時中は魚や山の獣を捕まえたし。ねぇ、恭一郎。雉もウサギもおいしかったでしょう。それにね、野鼠だってきちんと処理すれば食べれるのよ!ねぇ、おいしかったでしょう。私の罠は家族を飢えさせないための凄いものなの!」


 笑っていたはずの幸次郎はぴたりと笑いを収め、ボタンのような目になった。

 幸次郎の隣の、俺の為に目を三角に怒らせていた相良までもがそんな目になっている。

 多分俺の目もそうなっているはずだ。


 俺の思考は七年前に天野家で俺が療養していたあの夏の日々に飛び、俺が天野家で食べた肉料理について脳が全力で検索し始めた。

 そこに、そんな必死な俺に止めを刺す男がいた。


「うん、君は家族の救世主だったねぇ。戦時中に誰も飢えなかったのは君のお陰だよ。」


 更紗の実父のホヨホヨが、懐かしそうに目を細めてしみじみと言い出したではないか。


「俺は野鼠……食べた?……いつ?え、俺はドブネズミを食べていたの?」


 壊れ始めた俺にかまわず、更紗は誰もがうっとりするような笑顔を浮かべた。


「新婚旅行でかりかりしておいしいねって喜んだじゃない。前歯がオレンジ色だったからドブネズミじゃなくてヌートリアね。」


 俺は鼻で笑った。

 新婚旅行かよ、ついこの間じゃないか。


「ははははははは。」


「どうしたの?恭一郎。恭一郎がお金が無くなったって言うから、私は夕食を捕まえただけよ。奥さんがご飯を作るものでしょう。全然平気。」


 お金が無いからそろそろ帰ろうかと、帰りたがらない妻に口にした俺が悪いのか。

 俺は更紗の両手をキュッと自分の両手で掴んだ。


「どうしたの?あなた。」


 最愛の妻は俺に両手を包まれたことで、白く美しい頬を喜びに染めている。

 この色香に俺は流されてはいけないと、血を分けた裏切り者と俺を攻撃していた鬼婆までもが俺を哀れな目線で見守り始めた中、俺は自分の決意を妻に伝えた。


「絶対に僕が生きている限り君を飢えさせないからね、その技は僕が死ぬまで取っておこう。君の凄い技で生き物が全滅してしまったら、僕が死んだ後に君と子供が飢え死にしてしまうでしょう。罠以外の楽しい遊びを今度教えてあげるから。ね、いいよね。罠、やめよう。約束してくれる?」


 必死な俺の懇願に更紗は饅頭のように顔を膨らませて、物凄く渋々と約束してくれた。


「やめます。わな。」


 更紗が罠を止めると約束したからか、相良は子供を取り上げる脅しを引っ込めてくれたばかりか、なんと俺に優しく尋ねてくれたのだ。


「今日はご飯を食べて泊って行く?あなたの為に白身魚を調理させるわよ。」


 凄いよ!

 相良が俺を気遣って、絶対に肉では無い魚料理を薦めてくれたじゃないか!


「自宅の被害と誠司の様子を確認したいので帰ります。ありがとうございます。」


 実のところ、俺は胃の辺りがムズムズキリキリして飯が入りそうも無い気分であり、妻をギュッと抱きしめてから暇を告げた。

 明日は伊藤に頼んで寄生虫の検査をしてもらおう。

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