帰って来た愚連隊
「薬で作られた軍隊か。最初からこれの実験が目当てだったのかな。麻薬を輸送して未開の土地で実験するよりも市街地で暴れさせた方が良いデータが取れそうだ。おまけに宿無しの日雇い労働者には無理でも、麻薬中毒患者ならば居座る開発予定地から速やかに排除ができる、か。誰かが台本を書き直しているね。」
麻薬中毒者では麻薬の煙幕は効かないと、長谷はポケットの煙幕弾から手を外し、ロープの方を掴み直した。
「まぁ、いい。下っ端の俺のお仕事は完了しているし。暴れて楽しみましょう。」
「余所見をするなぁよぉ!」
ザシュとかなり強く角材が振り下ろされた。
が、長谷が素直に殴られるはずは無い。
長谷は持っていたロープを相手の顔に叩きつけてから、角材を掴み、長い足でしたたかに相手を蹴り飛ばした。
男は後ろの男達にぶち当たり、それが合図となって一時に長谷に殴りかかってきた。
長谷は奪った角材を構えるや飛び掛る一番手近な暴漢を、そいつが持つ角材を受けることなく男の胴に当てて払ったが、そいつは大して痛がる素振りも見せずに立ち上がった。
「麻薬で痛みには鈍感、か。」
舌打ちをしながら二人目、三人目とかわして蹴り飛ばし角材で払うが、それらも、そして最初に蹴り飛ばした男も長谷から少し離れた距離に転がっただけだった。
彼らは次々と死体のようにのっそりと立ち上がり、何のダメージも受けていない風にして、再び長谷への攻撃を開始しようと動き出したのである。
しようとしただけで未遂に終わったのは、横から男達に向かって黒いジャンパー姿の男達が飛び込んできたからだ。
黒いジャンパーには、格好良くない白い狼の刺繍が施されていた。
「おい、お前等気をつけろ。そいつらは薬をやっているから感覚が鈍いぞ!。」
長谷は叫び、手前の一人を殴り飛ばしたばかりの青年が、男達を乗せてきたバスの運転者に叫んだ。
「だってさ!達っちゃん。」
車から降りてきた優男の風貌の若い男は、矢野の親友の木下達彦であり、元白狼団の副頭領である。
彼は大きく舌打をすると、六人の相良警備会社の若手幹部でもある青年達、つまり元白狼団幹部六人の仲間達に大きく号令を出した。
「速やかに拘束。相良警備の本領見せろ!」
団員達は口々に舌打ちをして、粛々と拘束作業に入った。
彼らは確実に大立ち回りをして、さらには絶対に相手を数度は殴りつけてから伸してしまいたかったようだった。
「あれ、相良警備のお兄さん達は青森に研修旅行ではありませんでしたか。」
長谷は神出鬼没の田辺に内心驚きながらも、田辺に声を掛けられた木下監査役を見返した。
相良総合商社への誠司の叛乱のお灸として、相良警備の社長職を解かれて監査部に追いやられた青年だ。
彼は人好きのする笑顔を見せてカラっと答えた。
「首覚悟で研修所を逃げてきました。」
「あら。」
「いいの?あのオバちゃん怖いでしょ。」
すると優男はやくざも怯えそうな殺気を纏って「畜生が。」と呟いて、続けた。
「俺達を追い払ったせいで、誠ちゃんがパクられたのでしょうが。首になったって俺達があいつを守りますよ。それで、誠ちゃんはどこです?具合は?」
田辺が木下に面白くなさそうな視線を軽く投げたが、いつものような顔に戻ると、当たり前の事を木下達にお願いした。
「まずはこのガラクタを片付けて、警察を呼んで。俺はその間皆さんのお茶の支度をしますからね。長谷ちゃんは木下君と片付けの仕方を相談してあげて。」
そうして田辺はいつもの様に家の中に入って行ったのだった。
「長谷さん。いつも思うのですけど、あの田辺さんって何者ですか?突撃したトラックの運転手を引きずり出して縛り上げたのは長谷さんでは無いでしょう。俺は声をかけてもらうまで田辺さんの居場所がつかめませんでしたよ。」
ハハハっと長谷は大きく笑った。
「長谷さん?」
「あの人、戦時中の渾名はね、死神。」
「本当ですか。そんな怖い人だったのですか!」
「本当。俺は彼のお眼鏡に適わなかったからね、幸運の男って呼ばれているんだよ。」




