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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
十一 夫不在のペネロペは機を織る
37/71

御覧なさいましよ!

 私が出した馬鹿にした声で、梶に意識を向けていた男達が、私と小枝子へと一斉に振り向いた。

 梶はそれを合図に四人に飛び込み、なんと、二人を一瞬で殴り飛ばした。

 凄い、一撃で気絶させている上に、地面に放る動作の流れで銃までも奪っている。


 しかし、あとの二人は矢張りと言うべきか私達に向かってきた。

 梶は凄い人かもしれないが、彼はたった一人で、腕も二本しか無いのだ。


「嬢ちゃん達!」


 私は冷静に私に向かってくる男達を見据えていた。

 銃を持っているのならば動かずに、私達に銃の弾を撃ち込めばよいと思うが、思い当たりもしないところが一生雑兵の悲しさなのか。


「更紗ちゃん、逃げるわよ。腕を放して!」


「小枝子さん!逃げれって!そこの嬢ちゃん、何しているの!逃げてくれさ!」


 梶は走り出しながら、私達に大きく声を上げた。

 しかし私は震える小枝子を動けないようにぎゅっと掴み、男達の近付く足元を見ていた。


 パンジーを蹴散らかして走る男達は、あと、私の処まで六メートル。


 白い小花。

 ノースポールに到達したならば、と、私は白い十字架を手前に踏み倒した。


 ギュウン!


 そこで男達の姿が、私の花々を蹴散らして、私達の目の前からかき消えた。

 私は右手を軽く握った。


「やった!凄いでしょ!」


 誰からも賛辞が無い。

 意外と気弱な小枝子には期待はしていないが、逃がした男達を追ってきた梶という男は、私から五メートルくらいの位置で呆然と突っ立っているだけなのだ。

 小太りの体に河馬みたいな顔という、外見通りになんて間抜けな人なのだ!


「初めまして。わたくしは竹ノ塚恭一郎の妻でございます。いかがかしら、私の手腕は!」


 しかし、それでも小太りの男は、私に何の返事も返さなかった。

 梶は上を見上げ、そして私を見直し、そして再び上を見上げるだけだ。


 頭上では釣り糸で作った網に包まれて吊るされた二人の男達が、ハムのように糸を身体中に食い込ませて、糸が喰い込む痛みかヒイヒイ泣きながらプラプラと揺れている。

 ポタ、ポタっと血の滴が落ちてきた。

 血を被らないようにと、小枝子を連れて一歩だけ下がったが、この後に血塗れの雑魚を助け出すのも面倒だなと溜息を吐いた。

 豚だったら喜んで下ろして解体するのに、と。


「やっぱり釣り糸じゃあ、獲物の体に食い込んじゃうかぁ。降ろすのが面倒臭いなぁ。」


 梶はいかにも恐る恐ると言う風にして、勿論罠の有った血の滴る場所を避けながらだが、私の側に寄ってきた。

 そして私の目の前に来たのに再び上を見上げてごくんとつばを飲み、それからまた私をまじまじと見つめている。

 見つめ続けている。


 何か話せと、私は梶の脛を軽く蹴った。


「はう。」


 軽く蹴ったのにかなり痛そうな表情をしたが、私に蹴られたことで頭の血の巡りが良くなったのか、間抜けがようやく喋りだした。


「……嬢ちゃんが、やったの?」


 私は当たり前だろうという顔を見せてから、大きく頷いた。


「このままじゃあいつらミンチになりそうだから、下ろしたりの後始末はあなたがやっといて。」


「えぇ!」


 男は本当に間抜けだ。


「あなたのお友達でしょう。後始末くらいしなさいよ!」


 当たり前のことを叱りつけると、梶は「ひっ。」と叫んで、私から身を縮めた。

 なんて情けないと、脛を先程よりも強く蹴ってやった。


「ぎゃあ。」


 男は物凄い大声を出し、そして私はぐいんっと右に大きく引っ張られた。

 小枝子が気を失って、私が彼女の腕に腕をしっかりと絡めていたが為に、私は彼女と一緒に泥まみれの冬の庭に寝転ぶ事になってしまったのだ。


 ちっと大きく舌打をする。


「そこの間抜け!さっさと私達を起こしなさいよ!動け!」


 梶は「ひっ。」と私に間抜けな怯え声を出した。

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