俺は無敗の隊長では無いよ?
俺の質問に対して、長谷は乾いた笑い声をあげた。
「君の家を突撃したでしょ。彼はね、子供でしかない誠司を見つけると殴っていた屑だよ。竹ちゃんが確実に再起不能にすると思っていたのに、無傷で戻って来てがっかりだったよ。」
「なんだ、やりすぎでなくてホッとしたよ。」
「無傷だったでしょう。」
「麻酔薬がなかったから麻酔弾に梶のヘロインを入れたんだ。男のいない隙に女を狙おうとした奴らだからいいかなって。人生終わるけどいいかなってね。」
長谷は俺を賞賛するどころか、大きな舌打ちをした。
「殴って半殺しの方が後始末が楽だったよ。一般人が麻酔銃を持ってること自体がおかしいって捜査が入るでしょう。銃の前に麻薬の出所を調べられたら困るって考えなかったの?今回はそいつが麻薬を横流しした奴だから後始末は何とかするけどね。次はもう少し考えて行動してよ!」
「田辺が撃ちたがったのだから仕方がないでしょう。」
「うそ。」
「ほんとう。それで、そいつが誠司をあんなに痛めつけたのか?」
「違う。痛めつけたのは捜査第二課の連中。麻薬専門の所でね、誠司を麻薬密売人としてどうしても思い込みたい奴がいたようでね。冤罪逮捕されたのをいい事に、誠司が署に連行された途端に二課に連れ去ったのさ。助けようにも一課の俺には手が出せない。」
「あの刑事が良いタイミングで俺の家を襲撃したのは、君の仕業か。」
「犯罪犯すような馬鹿がした逮捕なら違法性しか無いだろうってさ、釈放せざる得なくなると思ったのだけどね。」
そこで長谷はおかしそうに笑い出した。
「聞いてよ、竹ちゃん。僕さあ、停職中なの。奴の逮捕を待ちきれなくてね、二課に押し入って暴れちゃったのよ。昇進どころか、同僚への暴力行為と捜査妨害で首が確実だね。」
一歩踏み出した長谷の顔には青あざがいくつかあり、手の甲や指の関節に内出血も見られた。
そして声の調子を聞くにそれは真実だろうと、真実であって欲しいと俺は彼の言葉を初めて信じた。
長谷を慕っている誠司のために。
「わかったよ。」
そして俺はもう一度部屋を見回した。
今度は長谷を信じた目で。
「この部屋の様子を見るに、梶は被害者の方か?」
「両方。」
俺と同じように室内をぐるっと見回してから、長谷は吐き捨てるように言い放った。
「あいつはね、競合店が出来たからって、金で雇った奴らにその店を襲わせたの。自分の店が潰れたら怖いからってね。その仕返しの、これ。」
「その報復で一斉に店を三軒放火されて失って、事務所で働いていた妻と親族七人まで焼き殺されるとはね。梶は競合店に何をしたの。それでお前が梶を誠司に投げ込んだ日の後か前か?これは。」
「前。」
「それなら梶を止める必要は無いだろう。最後までやらせとけば良かったじゃないか。」
長谷は俺を信じられない、という顔で見返した。
「放って置いたら梶は確実に死ぬでしょう。」
「止めた所で、もうどうにもならない状況でしょう。好きなように散らせてやれ。」
「俺はどうして君のような決断が出来ないのだろうね。」
「人でなしで無いからでしょ。田辺は君のことばっかり褒めるよ。あん人はいい人だって、恋人みたいにね。」
俺のぼやきに長谷は拳を口元に当てて笑い出したが、本気でおかしそうなくすくすと笑いだった。
「恋人だったからね。」
「うそ。」
「竹ちゃんは夫婦でしょ。俺達は別れたから、元恋人の関係だね。」
「やめてよ、そういう冗談。俺はそういうの嫌いなの。」
「割合と器が小さかったんだね。沢山いたじゃない、本隊。」
ニヤニヤと長谷は何時もの軽薄な表情を浮かべて近づいて来たので、俺は田辺とよくやる物凄く嫌な顔を彼に向けて作ってやった。
「いたから嫌なの。君を営倉から出した時に俺に絡んだ奴はね、俺に言い寄っていた奴なんだよ、あの高木ってお偉い少佐。断ったら前線送り。それで三人隊員を失ったよ。」
「うそ、君は隊員を殺さない無敗の隊長でしょう。」
「本当。隊長になったひと月で三人も死なせたよ。決断できないで一人死んで、決断してみたら一人死んで、考え中に勝手に一人死んだ。」
「その最後の勝手に死んだって、酷い言い方だけれど。一体どうしたの。」
俺は長谷から顔を逸らして天に敬礼をすると、棒読みのように一気にまくし立てた。
「隊長!自分は隊長の隊員で光栄でした!万歳!ドカーン。」
「何それ。」
驚きの目で見返す長谷の後ろに、俺の過去の戦場が見えた。




