梶の終わった人生
組織の武器は金に尽きる。
金がなければどんなにトップが傑作の人物であっても、その組織は生きながらえる事など出来ない。
反対に金さえあれば、延々とロクデモない組織を無能でも持ち続けることが出来るのだ。
けれども、組織を運営していく必要経費は、組織の成長と共に大きくなるのが常である。
お遊びの組織に長谷を入れた途端に、奴の家賃を背負う事になったり、だ。
誠司も加入しているお遊び会の内容は、仮想敵の侵略に対する備えである。
この世界の脅威が政府であっても、俺達の生活が脅かされる事態になるならば俺達は立ち上がる、という仮想だ。
人殺しが日常になってしまった俺達は、そうやって自分達の存在意義を認めて、己が人生を笑い飛ばして生きていくしかないのである。
ちなみに誠司は人殺しでも無いので、彼には親父達の秘密基地に招待されて嬉しいくらいしかないだろう。
子供を巻き込むとはと田辺には叱られたが、友達が一人もいなくなったと落ち込む彼に絆されてしまったのだ。
でかい図体をしているだけの子供なのだ、あれは。
でかくて厳つい大男なのに、「可愛い」とは何事だ。
俺はくだらないことを考えながら周囲を見回した。
梶の人生があったここは、くだらない事でも考えていないとやり切れない、取り戻しの出来ない惨状となっていたのだ。
我が家から一番近く、三軒あるうちの本店となるであろう「突撃飯屋」に足を運んでみれば、そこは見る影もなく真っ黒の惨状であり、俺は目を見張ることになったのである。
コンクリート作りの三階建ては、一階が店舗に二階が事務所、そして三階が梶達の住居であったようだ。
近所の人間の話では、梶は妻一族と親族経営をしていたらしい。
梶の幸せを支えていた四角いコンクリート造りの小さなビルは、崩れていないだけましというだけの建っているだけの状態だ。
建物の内部は燃やされ、開口部から吐き出された黒い煙によって、建物の外壁には黒い蛇を思わせる黒い筋が出来ていた。
この現場は幸せを黒く塗りつぶされた梶の人生そのものにしか見えず、俺は梶への同情を抱きつつ店内に入り、周囲の状況を見回した。
ただの火事ではなく可燃物、多分灯油を撒かれての放火だったのだろう。
灯油を燃やす際にできる独特の黒い煤が部屋中を染めており、どこもかしこも煤けて、机も椅子もカウンターも、燃えカスのように真っ黒になっていた。
店の奥には、上へと続く階段があった。
俺はそこへと向かい、住居であった場所の状況を確認するべく階段を上った。
そして、二階の事務所だった部屋、ドアも火事によって消え失せた黒いだけの空間に、先客が居たことを知った。
「忘れていたよ。君が嘘吐きで、嘘で人をコントロールするって事を。たまには真実で動いてくれないかな。俺は若くないからあの頃みたいに柔軟な対応ができないよ。」
事務所の隅で、俺を待っていたかのようにして立つ黒い影に、俺は泣き言を口にしていた。
梶の組織どころか、梶は店も家族も既に失っていたようなのである。
俺の泣き言を聞いた黒い影は肩を竦めて、酷いセリフを返した。
「竹ちゃんが鈍いだけでしょう。家族を殺されなければ、臆病者の梶がやり返すわけがないって考えなかった?」
「家族も焼け死んだのか?」
「奥さんの家族との親族経営。梶を入れて七人で店を回していたんだ。」
俺は腹の奥から空気を吐き出した。
そうしないと怒りで体が弾けそうなのだ。
「それで、冗談は抜きで真実の情報を出してくれないかな。誠司の受けた怪我は冗談で済まないんだよ。下手をすると一生歩けないかもしれないんだ。実際に、今のあいつは自分で歩けないんだよ!」
黒い影は鼻で笑った。
「長谷!」
「今回は嘘はない。嘘をついてやる必要のない屑ばかりだったからね。本園佐間介と俺の関係は田辺から聞いたでしょ。そして誠司の展示場から麻薬が見つかった事件をいい事に、誠司を潰そうとしていた動きがあったのも本当。彼は経済界の面々から疎まれているからね。ただの「ツバメ」であるなら苛めはないよ。あいつがそうじゃないって解っているからこその蔑みでしょ。妬まずに誠司と組めば旨い汁が吸えるだろうに。あいつが少年時代にあいつをいたぶった馬鹿刑事と同じ、先を読めない馬鹿共ばかりだ。」
「その馬鹿刑事とやらも今回関わっているのか?」
俺は理由さえあればその誰かを潰してやりたいぐらいに、自分の内側が暴力的な嵐で吹きすさんでいた。




