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一難去ってまた一難

 車に何かが飛び込んで来たとかなり慌てたからか、耀子の頭はいつもの判断など消え去った真っ白な状態になってしまった。

 しかし、助手席の誠司が彼女を守るように腕を回してハンドルを奪い、さらに彼の長い足が運転席のブレーキを彼女の代りに強く踏んだので、彼女は飛び込んできたそれを轢かずに済んだ。


 心臓が弾けるほどの鼓動を打つ中、誠司はサイドブレーキを引き車を完全に停止させた。

 そしてそれだけでなく、彼女を「大丈夫」だと抱きしめ直し、頭や腕をぽんぽんと撫でるまでしたのだ。


 彼女は轢かないですんだものに対して、今やかなりの感謝を捧げていた。

 車に飛び込んでくれてありがとう、という程に。


「ありがとう。貴方のお陰ね。」


「いいよ。今の異物を確かめてくるけど、耀子は大丈夫か?」


 ひと月ぶりに近い、耀子の大好きな微笑を浮かべた誠司の顔が目の前にあった。

 彼は微笑むと厳つい顔が一瞬で柔らかくなる。

 その顔は顎に小さな傷跡があったとしても、煌びやかな映画俳優のような顔であり、その素晴らしい顔が心配そうに自分に優しく笑いかけているのである。


「大丈夫よ。お願いね。」


 車の目前に転がっている血塗れの中年男性に向かう誠司の後姿を、耀子が幸福感だけで見送っていると、凄いスピードで走ってきた車がコルベットの脇を通り抜けて倒れている男のいる地点に急停車した。

 耀子は驚きながら自分の目の前で展開されていく事態、車内から安物のコートを羽織った三人の男達が次々と降りてくる場面を見守るしか出来なかった。


 あんなにもガラの悪い男達に誠司が何かされたらと脅えも背筋を走り、しかし彼女が誠司に声を上げる前にコート姿の方が意外と友好的な声を出した。


「悪いね、その男は此方で介抱しますから。」


 車から降りて来たばかりの三人のうち、黒眼鏡の髭を生やした男が誠司に笑顔を作りながら近付いてきたが、誠司は無言のままその男を足払いして転ばせた。

 そして、その動作の続きのように、もう一人の男の顔面に拳を入れて殴り倒したのである。


 三人目が誠司に向かう前に誠司は転ばせた男の鳩尾に足を突きいれて完全に気絶までさせており、三人目が誠司に襲いかかる頃には彼の方こそ余裕を持って彼の方が先に三人目を殴りつけて意識を失わせてしまった。

 耀子は初めて見た誠司の攻撃的な一面に、片手で口元を押さえて目を見張るだけであった。

 彼女の目の前では、誠司が倒した男達の財布を抜き取り身元の確認までも平然と行っている。


「な、何者だったの?」


「さぁ、まともな身分証がないからわからないよ。ただね、竹ちゃんが手を見ろって言っていたからさ。こいつ等の手、俺の良く知っているゴロツキの手つきだったからね。ほら、俺に声をかけながらナイフを握っていた証拠だよ。背中を見せたらブスっだったかな。」


 倒れている男の手をコートのポケットから取り出した後に、そこから誠司が銀色の四角い金属を二本の指で摘んでを取り出したのだ。

 どう見てもナイフに見えない銀色の四角いだけのものが冬日に鈍く煌めいた。


「それがナイフなの?」


 誠司は耀子が初めて見る影のある表情を作ると、シュッとその四角いものをナイフの形にした。


「バタフライナイフって言うんだよ。とても危ない。それで、てめぇ、俺の女に髪の毛一筋の怪我でも負わせて見ろ、殺すぞ。」


 耀子は誠司の殺気に体が強張り、そして、助手席側に道路に倒れていた男が立っていて、自分に対して銃を向けている事に気がついた。

 小太りで幸次郎より低いくらいの身長の男は、銃を持つ手を震わせながら、しかしながら目は驚いて見開いて誠司を見返していた。


「君、竹ちゃんが手を見ろって、それはもしかして竹ノ塚恭一郎か?そうならばお願いだ。オレを竹ノ塚隊長の所に連れて行ってくれ。」


 誠司は男の言葉に両の眉毛を上下させて、一瞬で友好的な表情になったが、反対に耀子の心の中は殺意で一杯に溢れ、どうしてこの男をひき殺してしまわなかったのだろうかと後悔頻りであった。

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