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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
四 お前がいるのは藪の中
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蛇が守りたいもの

 俺に笑顔を向けたのままの男は、左手をクイっと上げて玄関の方を指し示した。


「俺達は慌てて部屋から飛び出た風を装うからね、玄関に行こう。」


「慌ててね。俺達は子供を冤罪から守るために、悪党を冤罪に落としたのだね。」


「良心が痛む?」


「今日は自宅に忘れてきたみたいだよ。」


「今日だけ?」


 俺に両眉を上げておどけた表情をした長谷は、クルっと向き直り玄関へと右足を引きずりながらだがズンズンと歩いていき、俺は頭を軽く振ってから彼に従って追いかけた。

 長谷は上がり框を椅子のようにして足を降ろして座り込むと、隣に座るように座布団代わりのマットの端を叩いた。

 隣のそこに座れということだろうと俺も座り込む。


「それで、これで誠司の身は本当に大丈夫になるのだろうね?」


「多分ね。でもね、誠司の持ち込んだ展示物に麻薬が見つかったのは事実なんだよ。展示場で見つかって、誠司が責任者として警察で尋問も受けている。六時間もトイレはおろか水も無しでぶっ通し。相良が知ったら尋問官は明日の朝日が拝めないってわかっているのかね。あ、トイレはあった。尿検査ね。あの子は我慢強過ぎるよ。」


「全然知らなかったよ。それでそれはもしかして、梶と別件か?」


 にっこりと笑う長谷に、俺は目を瞑るしかない。

 この男は全ての罪を一先ず梶に被せて、元々依頼されていたらしきこの事件に混ぜ込んでしまったのだ。


 よって誠司の事件こそが犯罪者の思惑でも、その人間を逮捕はできない。

 裏で多分どころか、絶対にこの男は金を奪って破滅させるつもりだ。

 こいつは金に転ぶ悪徳警官でもあるのだ。


「君は誠司に関しては更紗よりも可愛がっているよね。」


「当たり前でしょ。誠司は真っ当な子で、更紗はケダモノじゃない。」


 そういえばそうだと納得する前に、長谷はふふっと笑いを含んだ声で告白した。


「誠司はね、俺の前の嫁さんの息子なんだよ。俺の前妻は七歳年上の未亡人でね、可愛い男の子の連れ子がいたんだよ。」


「うそ。」


 長谷は立ち上がり、玄関の扉に手を掛けた。

 そして玄関ドアにの鍵の部分に手をかけて、「嘘。」と呟いて鍵を開けた。


「嘘。大嘘。あの子は死んでいた。疎開先でね。俺が彼の存在を忘れていたからね、孤児になった彼はひとり寂しく飢え死にしたんだ。誠司が似たような境遇でしょ。父親の戦死の報を受けて、混乱した母親が弟を抱いて橋から身を投げたってさ。似ているでしょう。大人に忘れ去られた可哀想な子供。誠司は母親に忘れられて一緒に死んで貰えなかった少年なんだよ。」


 ようやく救急車とパトカーのサイレンの音が玄関前で響くなか、俺は俺の車の中で落ち込んで泣き言を呟く誠司の姿を思い出した。


「俺はいつの間にか頭領で仲間が皆俺の手下になっていたよ。俺の事を誠司さんって呼ぶの。仲間じゃなくなったんだよ。」


 それは一人ぼっちの孤独に泣くだけの、ただの小さな子供でしかなかった。

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