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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
三 隊長として問う
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梶の事情と思い出した間抜け話

「仕方が無い。続きを話せ、梶。嘘を入れたら飯を食わせずに追い出すからね。」


 梶に隊長時代の目線を飛ばして話の続きを促したが、梶は俺など見てもおらず真っ赤な顔で小枝子をただ見つめているだけだった。


「すっげぇ、いとうしげな人らて。まるで天女様らて。」


 梶は話にならない男になっていた。


「お前!俺を見ろ!俺が聞いているんだ!」


「ひぃ!」


「ああ、隊長!梶が脅えます!」


 その後なんやかんやと梶の口を開かせて得た情報は、彼が俺達に隠したかった事実、彼がやった麻薬の密売の中抜きである。

 梶は珈琲豆数袋と小麦粉の一袋をネコババしたのである。


「やっぱり。珈琲豆と小麦粉で嫌な予感がしたよ。」


 俺は椅子の背に背中をしっかりと沈めると、天井を仰ぐようにして上を向けた顔を両手で覆って嘆いて見せた。


「ねぇ、珈琲豆が麻薬と一緒だったのはどうして。」


「珈琲豆が麻薬の臭いを消すからですよ。アメリカの空港は犬を使って麻薬や爆発物を探知させていると聞きましたからね。」


 梶の告白にげんなりとしながらも、小枝子に律義に説明する田辺の情報源は、海外渡航の多い誠司である。

 誠司はシェパードという犬が荷物の上を行ったり来たりする姿に感激し、大喜びで写真を撮って帰国してきた事がある。

 その誠司は年末に税関職員から連絡を受けるや我が家を飛び出した。


 彼は仔犬を輸入してしまったのである。


 思い立った行動する割に書類仕事に関して常に完璧を期す男は、英語がわからないと国際電話を夜中の二時に我が家に掛けてきて、俺がアメリカの税関職員とやらと会話して動物の輸入手続きの詳細を誠司に通訳してやった経緯がある。


 しかして彼の愛すべき子供は十二月三十日の便で日本にやって来たが、意気揚々と迎えに行った彼に職員は検疫所に三十日間留め置きされる旨を無情にも宣告した。

 そこで彼は三が日、仔犬が心配だと検疫所に居座る迷惑人となったのである。


 今は愛車を相良の本社ビルに駐車させてプロジェクトの様子見と嘘をつき抜け出しては、検疫所の仔犬に日参しているということだ。


 彼の青いダルマオースチンは、仔犬専用道具で溢れかえっていることだろう。


「それで、あなたは麻薬をどうしたの?自分で使用したの?」


 小枝子の声に梶に再び意識を向けると、彼は頭を描いて恥ずかしそうに頭を下げた。


「君は麻薬を絶対に自分に使わない奴だからそこは安心だがね、残念な事に麻薬を小分けにして武器として所持中か。君を褒めるべきか叱り飛ばすべきか悩みどころだよ。」


 梶はヘヘっと俺に頭を下げた。

 武器になると教えたのは俺だ。

 よく燃える麻薬を発炎筒のように焚いて密室に投げ込めば、その場の人間は全員麻薬でハイになる。


 大昔、敵対勢力の隠し倉庫に俺達は物資強奪と破壊の任で侵入し、追い詰められたことがある。

 否、確実に逃げるために囮となった俺がそいつらをその倉庫内に招き、別の場所で奪っておいた麻薬を焚いたのだ。


 敵陣から食料をごっそりと強奪した俺達は、本隊の連中に拍手喝采で迎えられた、そんな昔話だ。


「――あれは危険だと、俺は教えた筈だよな。」


 同じ思い出を共有する田辺の声は低く、その声と調子から彼には俺と違い懐かしき思い出ではないようだ。

 彼はその唸るように恐ろしい声を出したあと、完全に鬼教官の声で梶を叱責したのである。


「あん時の浮かれた坊ちゃんを押さえるのにどれだけ苦労したか忘れたのか!お前も使えばあんな前後不覚になるとわかっていてそれか!こん人みたいに裸踊りがしたいか!」


 田辺が俺をびしっと指差した。


「すんませんでした!一切合財、全部処分しますっけ許してくんろ。」


 梶はがばっと田辺に土下座して謝ると、パンツのなかから小型の発炎筒らしきものを三つ取り出して自分の膝の前に並べていった。

 どうやら俺の栄光の記憶は俺の中でかなり改竄されていたものらしい。

 梶の隣で丸くなって笑い転げる小枝子が、そんな俺の気に大変に触った。

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