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お代は猫でお願いします  作者: 蔵前
三 隊長として問う
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さあ話せ

 渡航解除に輸出入の制限が次々と解除されていった昭和三十年代は、他国の戦争による特需も相まって日本の経済の復興と発展が目覚しかった時代である。

 梶は敗戦後も故郷に戻らずに東京に残り、闇市で稼いで生き残っていた。

 そしてそれを元手に簡易食堂を開き、それが受けたのだという。


「驚いたれ。オレの家のある在郷ざいごでは外食なんか誰も行かねぇです。金ねぇから。それが東京じゃあ、家で飯を作るぐらいの値段で提供すれば客が押し寄せるねっか。びっくりらて。」


 俺も驚いたが、梶の店は巷で話題になっている「突撃飯屋」であった。

 その名のとおり、店に突撃すれば素早く、それも肉が多目の丼が食べられるのだ。

 生き馬の目を抜く勢いで働くタクシーやトラックの運転手達に、その店はとても好評なのだと俺だって聞いていた人気店であるのだ。


「それで、君の店とその怪我がどう繋がる?」


「自分の店の食材は輸入が多いんです。肉はアメリカです。それも肉そのものじゃなくて骨を輸入するんです。骨はタダ同然らて、骨についている肉をこそげてですね。そんで、港に輸入品を受け取りに行きましたらね、自分の品物じゃないのですよ。」


「何だった?」


「大量の珈琲豆と小麦粉です。」


 俺は標準語を話し始めた梶に嫌な予感に突かれながらも、一先ず彼の話の先を促した。


「港湾の者に伝えましたらウチの荷物がすぐに見つかりましたので、自分は自分の荷物を持って会社の工場に戻りました。そうしたら、数日後の帰宅途中に襲撃です。」


「報告を端折るんじゃない!」


 恐ろしい声で梶を叱責したのは、田辺軍曹だった。

 彼は俺の副官で隊を束ねる本物の黒幕であるのだ。


 俺は猿回しの猿、ハハ。


 田辺の怒号を受けた梶は正座に座り直し、隊員時代の面影のある表情で田辺を見上げた。

 つまり、物凄く怯えた表情って事だ。


「あの、実は。」


「ちょっと待って、ここに一般人がいる。彼女を犯罪に巻き込みたくないよ。小枝、悪いけど二階か俺の書斎の方にひとまず行ってもらえるか?」


 ところが、小枝子はニヒヒと笑った。


「無職になったあたしはやることが無いからね。これから犯罪に身を沈めるのも楽しそう。」


 俺の横で大きな溜息が吐き出され、田辺が真面目な声で小枝子に語りかけた。


「お嬢さん。この馬鹿に手当てをしてくれた事に感謝しているからこそ、こんな馬鹿な出来事に巻き込みたくないのですよ。あなたは真っ当な人です。そうでしょう。」


 狸は嘘くさい純情そうな表情をすると、眼鏡を外して田辺にニコッと微笑んだ。


「ここからあたくしを追い出しましたら、どうして一般人が必要の無い医療器具や処方箋の必要な薬を大量に持っているのか不思議だと交番に駆け込みますよ。」


 グっと言葉に詰まった田辺の姿はめったに見れないと面白かったが、あとが怖いオーラも纏っていた。

 彼は軍曹時代の隊員全てを心胆寒からせた舌打ちをすると、鬱憤を全てぶつける様な目で俺をギロっと睨んだ。


「軍曹、な、何でしょうか?」


 俺は威厳など無く、ただ田辺に怯えていた。


「坊ちゃん。あなたの周りはどうしてこんなのばっかりなのですか。」


「こんなのってヒドーイ。もう、大ちゃんたらいけずぅ。」


 小枝子の甘く擦れた声に田辺が固まったのがわかった。

 一般的な美人ではないがとても可愛い顔立ちの彼女は、くるくるとした癖の強い髪を顎のラインで切りそろえている。

 巻き毛のような癖毛がただのおかっぱではなく天使の髪型のように見せており、それが小枝子をとてもコケティッシュに演出していた。


 つまり、眼鏡を外してふざけて唇をとんがらせて色っぽい声を出した小枝子は、清楚なのに扇情的で色っぽいという、男好きのするいい女に見えるのだ。


「え、どうして俺が大ちゃんだと?」


「ん、もう。お正月に竹ノ塚さん家であたしにお茶を点ててくれたじゃない。あーんなにあたしを褒めてくれた癖に、あたしを忘れたなんて酷い人。」


「あんたはあん時の総絞りの別嬪さんだったのか!」


 田辺の狼狽の大きさに俺は大きく溜息をついた。

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