『竜です。養子になりました』
二人の間で沈黙が生まれる。睨まれたから睨み返したんだがこれは選択を間違えたか……? なんか凄い殺気放ってるし。ここは逃げるべきか……。
「…………ま、いいか! 坊主、腹減ってないか?」
『…………え?』
大きなテーブルの上に肉や魚、その他諸々食事が飾り付けられている。
「ハッハッハ! しっかし魔力枯渇で倒れているやつを見たのは10年ぶりだぞ! 」
大きな肉を片手に大男はそう笑い飛ばした。
『……別に…よいでないか……』
ワシも同様、肉を頬張っていた。どうやらこの者たちに助けられたようだ。さっき放っていた殺気も大男からは消えていた。危険ではないと判断したのだろうか。
「……ところで坊主、お前何者だ? 人の姿をしとるが人間ではないだろう?」
『……なぜわかる? 』
そう聞くと大男は懐から一本のポーションを取り出した。
「この魔力ポーション、こいつは人間の魔力を最大まで回復出来る量なんだが坊主、お前まだ魔力が足らんだろ。それはちと異常なんだな」
確かに魔力は全然回復してないが……。なぜ見ただけでそんなことが分かる?もしかしてこいつも竜族の皮を被った人間なのか?
『……あなたこそ、何者なんですか?』
「わしは勇者の孫じゃ」
『…………はぁぁぁあ!??』
「……ど、どうしたんじゃ急に……。」
……てことはわしを倒した末裔に拾われたということか……。なんて巡り合わせだ全く…。
『……ワシは勇者に殺された竜なのだ。いきなり訳分からん技名を叫んだと思えば次の瞬間にはあの世行きよ……』
「…………お主は元々竜なのか? ぶワッハッハ!! そんなわけあるまい! まして竜族が魔力枯渇で倒れはせんだろう! ……いや、しかし竜語が話せる…か……うむぅ……」
ワシだってびっくりした。魔法の制御が全く出来なくなっていたのは恐らく魔力回路の暴走、つまり魔力の供給過多だ。人間と竜族では魔力の使用法が全く違うのだろう。
「まあなんにせよ坊主、人の言葉は話せんのか? アンリが困惑しておる」
アンリの方を見ると頭に大きなハテナマークを浮かべて天井を眺めていた。
「問題ない。ただ少し慣れないだけだ」
「あっ! ようやく聞き取れたわ!」
アンリがほっとした顔で俺を見た。自分だけ除け者にされてたのが不安だったようだ。
「どうしても聞きたいことがあって…。あなた、身寄りはいるの?」
アンリは突然そう質問してきた。もちろん身寄りなんてこの地にはいない。なんせ森の中にころがってたのだからな。
「いないが……」
「そう……いないのね。……あのね、もしあなたが良ければ……私達の養子にならない? 」
「養子? なんだそれは?」
「簡単に言えば、俺達の子になるということだ。坊主、身寄りのいないお前にとって悪くない話だと思うんだがどうだ? それにその歳で一人生きていくのも難しいだろう」
……今この体の肉体年齢は10といったところか……。魔力もろくに使えない今、一人で生きるのは確かに難しい。……だが本当にこやつらを信用していいのだろうか? 『竜族の生まれ変わりだ〜!』とか言って売り飛ばされないだろうか……。
「坊主、そんなに深く考えなさんな。ここに残るか他所へ行くかだけでいい。だがワシらとしてはここに残って欲しい。これはお前のためを思ってでもある」
大男は真剣な眼差しでそういった。
「……実はここ最近、この近くで嫌な噂を聞くのよ」
「嫌な噂?」
アンリの言葉に耳を傾ける。
「ええ。ここの領は安全なんだけど、隣の領で子供が急にいなくなるという噂よ。それが心配なの……」
……子供がいなくなるか。それは胸糞悪い話だな。わしは人間自体そこまで好きという訳では無いが子供は好きだ。まあ昔ワシが小さな時に食料を与えてくれたというのが理由なんだが……。
……心配してくれているということは、少なくとも危害を加えるようなことはしてこないか。
「分かった。その提案、受けるぞ」
「ほんと? 良かったわ! これからよろしくね……え〜っと……あなた名前は?」
「……名前? ……ワシにそんなものは無い」
「なら……そうね、……ジークなんてのはどう? 」
「ジーク、それがワシの名前になるのか? 悪くないな」
「じゃあ決まりね! これからよろしくねジーク。私はアンリ、この髭面が私の夫エルドよ」
そう言われると、エルドは席を立ちワシの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「ハッハッハ! よろしくなジーク! 自称竜族の生まれ変わりよ!」
……自称じゃないんだけどな……。
*
「……うぁあ……助けて……お母さ…ん……」
少年の体から紫色に光る何かが浮き出る。それが浮きでた少年の体はピクリとも動かなくなった。
「ほう。これはまたいい素材が集まった。イシュルド、あと何人程で足りる?」
「あと一人、といった所でしょうか。魔力の高いものなら間違いなく……」
「そうか……。この領が沈むのも時間の問題だな」