6話 安っぽい涙
女心なる物は難しいと思う今日この頃。
私も幼馴染が欲しかった。
時刻は午後16時頃を過ぎ、帰路はオレンジ色に染まっている。
諒平と真仲の間に会話は無かった。
諒平は千津に電話するという恐ろしさのあまり。
一方の真仲は千津の恋路を切り開きたいばかり。
ウキウキとゲンナリが交わった異色の光景に、すれ違う人々は必ず二度見した。
「さぁ、辺野さん。どうぞ私の部屋へ。」
「こんなにも恐ろしいお誘いがあるだろうか……ましてや女の子から。」
「いいじゃないですか? 何も問題ありませんよね?」
大有りだ、そう言えない諒平。
なんて可哀想な男だろう。
大股で進む真仲の背中を追いかけていたらあっという間に自宅アパートに着いてしまったのだった。
「どうぞどうぞ。」
「……どうもどうも」
嫌味混じりの返事に我関せず、真仲は早々にお茶を入れ始める。
諒平にとっては誘拐と変わらない状況にもかかわらず、真仲はお客人として迎え入れようとしたのだ。
これには諒平も怒った。
怒って携帯を取り出し千津に電話をかけた。
そう、かれは意気地なしなのだ。
従順に従うしかない弱い男なのだ。
「お!もうかけたんですか!」
「……」
(頼む、どうか忙しい中であってくれ)
諒平の願い虚しくも、千津はたったのワンコールで応答した。
そう、双葉 千津は諒平の事が好きなのだ。
「もしもし〜?珍しいわね諒平……」
電話越しの落ち着いた凛々しい声に音を立てず大はしゃぎする真仲。
「……暇なのかよ……」
「暇じゃないわ、今は会社の会議中よ。」
「めちゃくちゃ忙しいじゃないか。切るぞ」
「いや、待ってよ何でかけてきたのよ。しかも、今は抜け出してきたから大丈夫だし」
千津が声を発すると同時に真仲は何とも可愛らしく諒平を睨みつけていた。
「……えぇとだな……今週、空いてるか?」
「え……別に休みを取ろうと思えば取れるけれど、何……怪しい」
「失礼な……あ、会ってくれないと僕は殺されるかもしれないんだ。頼む」
「ようやくあたしに養われる気になったようね。そう……まぁ、仕方ないわよね。諒平お金無いものね」
「養われる気はさらさら無い。が、お金が無い事は間違いない。とにかく頼む」
「えぇ、えぇ、わかった。2日後には行けるわよ。諒平はその日でいいかしら?……ってごめんなさい、あなたいつでも暇だったわよね」
その時、諒平は動いた。
言われっぱなしの自分に嫌気がさしたのか、彼は電話をいきなり切った。
切りやがったのだ。
「……やっぱ僕はこいつ苦手だ……」
「……辺野さん?」
オーラ!
おぞましいオーラ!
殺意と邪気を帯びた漆黒のオーラが諒平を覆う!
「いっいや〜真仲さん?これはですね……僕もちょっと言われ様に我慢できなくて……あはは」
「その1、部屋が汚い。その2、不潔。その3、極度のコミュニケーション障害。その4、無職。その5、人の気持ちが理解できない。そのろ……」
「うッ……ヒッ……く……もう……もうわかりましたから……それ以上は……もう」
「わかれば良いのです。辺野さん、反省して下さい。あなたは言われても仕方ないんです。言われない様に成長すれば良いんです。やるべき事があるでしょう?」
「……はい……ッ!……仕事します!」
「違ーうッ!! もう一度電話かける事ー!!」
心底女性を恐ろしいと思った諒平は改心した。
千津にはメールで謝罪をし、真仲から女心なる物を教わった。
真仲も少しだけ言い過ぎたと反省し、そのお詫びとしてカレーを夕食に振る舞った。
心なしか、カレーは安っぽい涙の味がしたようだ。
あまり虐めないで下さい。
彼は彼女いない歴=年齢なんです。
6話も読んでくださりありがとうございました!