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4話 絶対今夜カレーだろ

良い意味でアホです。




「……昨日は、すみませ……ん?……うわぁぁダメだ」


文字を打っては消し、文字を打っては消し。

諒平は今悩んでいた。


どう謝罪しようか考え抜き、至った結論。

メール。

男の片隅にも置けないが彼なりに努力したのだ。


「……ハッ。もしや僕の口臭が原因ッ!」


頭の悪い結論に至った諒平は歯を磨きに洗面所へ向かった。

自身の口臭が原因で頭が回らないのだとか。


ブブブブブブッとズボンのポケットに入れた携帯が震え出す。

久しぶりにメールを受信した合図にニヤニヤする諒平だが向かい合う鏡にも同じ様にニヤニヤする男がいると考えたくも無い。


『はじめまして』

とだけ書かれた本文、宛先は真仲さんだった。


「いや、初めましてって」


『はじめまして! っじゃないでしょーが!

初メールの内容短すぎませんか。まぁ話題作るなんて簡単じゃないのはわかりますけれど。^_^ ↩︎

真仲さんは昨日、楽しかったですか?僕はとても楽しかったです。カレー最高! 久しぶりの食事でした。↩︎

それに、昨日の事謝りたくて、朝お会いしたのもその件です。結局謝れませんでしたが。とても申し訳なく思ってます。すみませんでした。これからも会ってくれるとおっしゃってましたが本当でしょうか?もしも本当なら嬉しい限りです! 辺野』


「……これで良しっと。送信!」


最初に言っておくべきだったがこの男、諒平はアホである。

事実、歯磨きを結局忘れ、返信するのに40分も要した。


「……お、返信早。」


真仲はメールになると素っ気ないタイプだった。

『長過ぎ。』


諒平はまたも泣き崩れた。



謝罪の返事を聞かせてもらえなかった諒平は二時間程布団にこもった。

頭まで布団を被せ自分の何が悪かったのかを改めて考え直したが、結局返信の速度が遅かったから怒っているのだと反省していた。

脳の部品が一部損傷しているのだ。



そんな時、インターホンが鳴り、諒平を現世に引き戻した。

項垂れながらも、玄関を開けるとそこには真仲がニコニコしながら立っていた。


「メール長過ぎですよ辺野さん!ふふふっ」


「ま、真仲さん!」


「また後程とお伝えしましたので来ました!遊びに行きましょう! 」


「え!遊びに……ですか?僕と?」


諒平は悪徳セールスや詐欺広告に引っかかりやすいタイプである。


「さ!行きますから、着替えてきて下さいね。そんな格好じゃ半径5メートルは間隔を空けて歩いちゃいます」


「……」


本当に真仲ならやりかねないと思った諒平は就職する為に買ったスーツのシャツとパンツを身につけた。

これが諒平が保持する唯一の正装である。


「今日は暑いの知ってましたか?ふふ」


現に真仲は純白のワンピースに麦わら帽子。

まさに夏らしく、同時に可愛らしくもある完璧な服装だった。

不釣り合いなのは理解しながらも諒平はこの状況を嬉しく思っている。


「いいんです。どこに行くんですか?」


「わかりません!」

「え?」


「引っ越してきたばかりですから、辺野さんが案内して下さい!」


丁度アパートの階段を降りたところで振り向きざまに言ってくる真仲に諒平は何も言えなかった。

正直彼は真仲を可愛いと思っている。

まさか自分がアニメの様な出来事を体験している事自体未だに信じられていない。

だから、

「ま、任せてください!」





比較的都会ではあるこの街は目立ったビル等無いものの、大きなデパートや映画館、多くのカフェにレストラン、その他何不自由無く日常生活を送るための設備が揃っている。

今ではまったく無縁ではあるが、一応要所要所立ち寄る程度の事は引っ越して間もない頃に済ませていた。


今、諒平と真仲はアパートを出てから10分程歩いた地点にいた。

周りには自室のあるアパートと同じ様な建物が並んでいて、店といえば床屋や和菓子屋など、諒平曰くあまりパッとしない店ばかりだとか。


「全然人がいませんね。」


「駅前に出ればたくさんいるよ。ゴミのように」


「昨日までゴミだった人が何言ってるんですか!」


「……」


イラッとするものの、ニコニコしながら隣を歩く真仲に時々見惚れている諒平。


歩く事数分、駅前の大通りに差し掛かり、


「ここが駅前通りだよ」


「わぁ〜!綺麗〜!私、田舎に住んでたので

一度高〜いビルを下から眺めてみたかったんです!」


アパートから真っ直ぐ進むだけの道と垂直に走る6車線道路。

そこには歩道橋がかかり、大勢の人で賑わう都会の街並み。

田舎出身の諒平も、今真仲が感じている様に期待と夢に胸を膨らませた事を思い出す。


「あー!ここに繋がっているんですね〜!」


真仲が指差す反対車線にはスーパーがある。

真仲が挨拶に来た日に諒平が行く予定だった救世主。


「来たこと……あるよね真仲さん、お饅頭くれた……」


「はい!その時はタクシーでしたから、あまり見れてなくって。あのお饅頭食べてくれましたか?」


「あ……うん、美味しかった、ありがとう」


「良かったです!」


無論、手をつけず大事に保管してある。


「お腹空きませんか?」

「え、減った?いやうん減ったかも…」


極度の空腹状態で過ごしていた諒平にとって、1日食べないのは慣れたものだった。

昨日のカレーであと1日は何も食べずにいれる程に。


「ふふ、どっちですか、私はお腹空いたので

買いに行きます!辺野さん!」


「いや、スーパーにかいっ!」


ファミレスかと思い込んでいた諒平は意表を突かれた。

はにかみながらツッコムのが精一杯の努力。



いらっしゃいませ、と店員の声を聞いたのは今日が初めてだった。

常に外出する時はイヤホンを着ける体質である諒平はまた誰かと一緒に入るスーパーにも新鮮さを感じていた。



「これ美味しいそうですね!」


「確かに……」


スーパーデートなんて聞いたことが無い。

そんな事ばかり考えている諒平。

しかもこの男、自分は食と無縁な場所にいると、仙人にでもなった様な気でいるのだ。


そんな思考に至る理由は単純に金が無いからである。


「辺野さんどれ食べます?」


「え?いや、いいよ僕は食べなくても大丈……」


「ダメです!健康に少しは気を使って下さい!」


頰をぷっくりと膨らませながら怒る真仲にドキドキしながら諒平は目を逸らし、


「いや、流石に……」


女の子に買ってもらうのは良くない。

そんな概念が無駄に染み付いているのだ。


「……わかりました、じゃあ貸しです!それならいいですよね?」


「わ、わかりました。これお願いします……」


そう言ってお願いしたのは日系麺職人。

味噌。


「……私辺野さんよりインスタント麺が似合う人知りません」


「光栄です」


真仲の偉い所はツッコミを入れないところにある。

「褒めて無い」と真仲が告げれば均衡が崩れるのを気遣ったのだろう。



「あ、こっちのレジ空いてますね! こっちですよ辺野さん!」

「あ、はい」


ちなみに真仲が買うのは人参、玉ねぎ、ジャガイモ、牛肉。

それがカレーの材料である事を諒平は理解し、同時に驚愕した。

腹が減ったと言ってすぐ食べれる物を買っていない事に。


現在時刻は14時。

昼時で、平日という事もあり主婦達で賑わうスーパー内。


「辺野さんって友達いるんですか?」


諒平は涙を我慢して小さく嗚咽した後答える。

「いるよ友達……ちゃんとね」


目を出会った日と同じくらい大きくして驚く真仲に傷つきながらも、


「友達なんて1人か2人いれば充分なんだよ」


と強がりを言い放つ諒平。


「……で、何人です?」

「1人」

「……」









やっぱり悪い方のアホでした。

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