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3話 バードウォッチング

幼馴染という制度。永遠の謎である。




その後、諒平は心ここに在らず。

心の代わり、空いた空白に現実という明確な差を叩きつけられたようであった。


だが感情はあった。

悔しさや自分への無力感、脱力感の後には、真仲へと言い放った言葉に罪悪感が生まれ、

気がつくと諒平は真仲の荷解きを手伝っていた。


何段にも積み重なった段ボールから山になったスケッチブックの束が出てくるたび、悲しみを紛らわそうと意味のわからないカレーの話や馬鹿みたいなカレーの話を真仲に聞かせた。


「ふぅ〜終わりましたー!辺野さんそっちは終わりましたか?」


「……」

「辺野さん?」


「……あっ、終わった、終わったよ。」

「良かったです!助かりました〜」


「うん、案外早く終わったね」

「早くなかったですよ〜もう暗くなっちゃいました!」


実質、3時間程の作業だがその2時間はカレーの話で終わっていたのだが。


「辺野さん、今日は本当ありがとうございました!1人じゃ多分一生やらなかったんじゃないかな〜」


「一生って。……じゃあ僕はそろそろ」


片方だけ口角を上げる嫌な笑いを行うと、足早に帰ろうとする諒平。


「あ、もう帰っちゃうんですか〜!」


時に武器となる無邪気な笑顔を諒平に浴びせる真仲だが、さすがに察したのか引き下がる。


「うん……それに今日はごめんね。気まづくなっちゃいましたよね……」


「流石にびっくりしました。ふふふ、ただ辺野さんの事1日でたくさん知れたので良かったです!」


「ハハハ……シャワーにカレーもありがとうございました。あまり遅くまで描いて体調崩さないようにね」


「辺野さんこそ、毎日お部屋訪ねますから、体調管理をしっかりと! です! 」


「毎日はちょっと……」


「ふふふ、お楽しみに〜」

「ハハハ……おやすみなさい」



外の空気に数時間ぶりに触れた諒平は深く息を吸った後、魂が抜けるようなため息をつく。

生憎の雨でジメジメとした外の空気は落ち込む諒平をやんわりと包む。


「ただいま……」


わすが2メートル程の帰路に着き、誰もいない自室に向かい挨拶をする。


真仲の部屋とは対照的に暗い室内は、暗い諒平を更に濃くさせた。


「本当に毎日来るのかな……」


そんな諒平だが眠りに落ちる時には可愛い隣人が本当に毎日会ってくれるのかと考えるくらいにはアホに復活していたのであった。









アパート周辺に巣を作っている鳥がいるらしく、

朝からやかましく諒平の眠りを妨げる。



「……クソッ」


ちょっと強気でいられるのは昨日お風呂に入ったからであった。


後5分だのとおきまりの台詞は幼馴染や妹がいる男にのみ許された特権で、自分の様な人間には縁の無い話だと諒平は毎朝考える。


独り身の僕は後5時間は寝れるなと、堕落の頂点にいる男。

目を瞑るも、昨夜の出来事を思い返し、再び起き上がった。


朝の歯磨きもせず、おもむろに玄関のドアを開け隣人である真仲に会いに行こうとする。


ドアノブを回しドアを半分程開けた時、誰かの視線に気がつく。


「何をしてるんだ真仲さん……」

「おはようです……」


視線の主は真仲だった。

諒平と同じ様にドアから半分だけ顔を覗かせた真仲だった。


「……お、おはようございます……何してるんですか」


「ご近所さんと挨拶を交わしました」


「それはそうですけど……顔の出し方おかしくないですか」


「趣味です」


どうやら真仲の趣味は地面と垂直に顔を出す事らしい。


「実は昨日言い忘れてたことがありまして、携帯持ってますか?」

「持ってますよ、携帯代だけは何とか食いつないでますから。」


情け無い話である。


「ふふ、良かった〜!そんな見た目で仕事もしてないのに携帯だけはちゃんとあるんですね〜!メールアドレス教えて欲しいです辺野さん!」


女の子とメルアドを交換できる嬉しさよりも、一言も二言も多い真仲へイライラした諒平、


「NO」

「Who!?」

「いや辺野だから!?」


WHY という疑問詞さえ理解していない真仲相手に

その後かれこれ15分程生産性皆無な会話を続けた諒平は、これ以上頭半分だけで行われる会話が御近所の目にとまる事を避けるため渋々メルアドを交換した。


「ふふふ……ありがたく。では後ほど。」

「……後ほど?」


不敵な笑みを浮かべた後、真仲は勢いよくドアを閉め、消えて行った。


謝る気でいた諒平は何故だか取り残された気分を再び味わい、数分鳥を眺めた。







私も朝カラスに起こされます。

めちゃくちゃ不機嫌になります

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