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1話 隣人さん

もしも私を知っている方、ゼロからスタートさせて頂きます。平 慶と名を変えて。

『浪人してい(割愛)』をリメイク、作り直しました。反省を活かし……と言いたいですが、相変わらず長いです。ですが約束します。笑わせますから。最後まで……新たな諒平を見守って下さい。





若緑色に染まる畳、六畳程度の部屋

白く濁った窓ガラスから注ぐオレンジ色の光が

台所の古びたシンクに輝きを与える。


どこか寂しく、どこにでもありそうな

小さくボロいアパートの二階端っこに位置する201号室。


畳の上にポツリと座り込んで、

男は何時間も虚空を見つめていた。

目にかかる程伸びた髪、口元を覆う小汚いヒゲ。

寄れたTシャツに身を纏う負のオーラ。




「はぁ……。」


男が放った大きなため息は小さな部屋に響き渡る。


「僕……これからどうしていけばいいんだろうなぁ」


辺野 諒平は絶望の中にいた。

長く外へ出ていないせいか、一言で言うと不潔。

だらしなく伸びたヒゲに寄れた服。



高校を卒業して3年

実に充実していた高校生活だったと諒平は染み染み思う。

だが、卒業を半年後に控えた時期に彼はドン底へと滑り落ちていったのである。


何があったのか?



大学受験に失敗したのだ。


高校卒業する前に学生は進学か就職を選択する。

実家を継ぐだとか、様々な理由でその選択を取らない者もいるが、諒平はアニメーター、漫画家、小説家といった職業を望んでいたので進学を選んだ。


だが卒業半年前までずっと絵を書いてきた事もあって勉強とはかけ離れた位置にいたのだ。


そう、諒平は勉強を舐めていた。


その後勉強もせずに絵ばかり描きまくっていたら案の定。


仕事も2ヶ月程で辞める周期を繰り返し、あいにく家族にも縁を切られる始末で。

正確には、自ら切ってしまったのだが。


週に2、3回、多くて5回は流れる安っぽい涙が頬を伝う。


諒平が住むアパートには彼と大家、あとは定年間近のおじさん1人が住んでいる。

華もなければ交流も無い寂しいアパートなのだ。


涙を流す諒平の腹がここぞとばかり大きな音を立てて鳴いた。


貯金を切り崩しての生活。食費やら様々な費用節約の為、飯は週4回と減らしているのが現状。


「買いに行こ……」


マイバッグと千円札をポケットに忍ばせ支度する。

玄関でこれもまた古くなった靴を履き、踵の部分がうまく足にフィットしない事にイラつく。

眉間に深くシワを掘り、舌打ち。


勢いよくドアノブを回して飛び出す。

その瞬発力は彼を元陸上部かと思わせるも諒平は帰宅部だった。


そんなどうでも良い日常に、その出会いは起こった。

寂しく悲しい男に運命は優しくも微笑んだのだ。


ドアを開けたその先に、夕日のせいなのか染めたのか地毛なのか。

そこには綺麗な輝きを放つ茶髪で。

微妙に似合っていない大きめのリボンを付けた、お嬢様だと紹介されても違和感の無い、綺麗な女の子がいた。


「「はい?」」


世界中探したってまず無いケースだろう。

彼女もまさしく諒平が住む部屋を訪ねようと、インターホンに手をかけた瞬間だったのだ。


「あの……すいません!」


先に声をかけたのは女の子の方だった。


謝る必要は無い。

悪いのは諒平なのだ、例えるなら歩行者と自動車の関係そのものなのだ。

人が飛び出しても車が悪いことになる、そんな世だ。


「いえ……すいません」


波に打ち上げられた魚か、そんな具合に小さな口をパクパクさせ目を剝きだす女の子。

せっかくの可愛い顔が台無しである。


「あの……どちら様でしょうか?」


「あっ、あの! うちはとな、いえ! 私は隣に今日越してきました者です!! 」


「は……はぁ……こんなアパートにですか……」


「そ、それでお隣さんに挨拶をと思いまして! 」


「そうでしたか、わざわざすみません」


諒平は捻くれている。


「それでこれ……良かったらどうぞ!」


諒平は貰ったことの無いはずだが、バレンタインデーに勇気を振り絞り好きな異性にプレゼントする少女ばりの勢いだと思った。

突き出されたのはお饅頭だが。


「そんな、いいですよこんな大層なもの」


諒平はお饅頭が嫌いであった。

好き嫌い激しいめんどくさいタイプの人間で、その上寂しく悲しいという最悪なスペックで……これは言い過ぎた。


だから諒平は丁重にお断りする。


「大層なものじゃないです! さっき駅前のスーパーで買ってきたやつです!」


女の子の天然さはさて置き、諒平は感じていた。

女の子が買ってきたというお饅頭は毎度駅前のスーパーで売れ残っている厄介の1つあの"お饅頭"であると。


「実は僕お饅頭食べれな……」


言い出したタイミングで心地よく腹が鳴る。

なにせ貴重な食料なのだ。

例え幼い頃に喉を詰まらせてから度々夢に出てくるお饅頭であったとしても。


「……イタダキマス」


「はい!美味しく食べて下さいね!」


彼女の返答は全てチャットならハートが文末に付く。

一々《いちいち》諒平は高校の時に交流が無かったからといってドキドキしている正直者だった。


「そんなことより、お隣さんはどこへ行くつもりだったんですか?」


「駅前のスーパーです」


あえて駅前のスーパーをスーパー強調した諒平。


「あ、そうだったんですね!でもその服と……それでいくんですか?」


まるで汚物を見るが如き態度で一瞥したあと、諒平の顔を指差す女の子。

それはそのはず。

服は所々に穴が空いていて、囚人服の方がよほど綺麗に仕立て上がっている。

ここ4日間ほど風呂にも入っていないせいか、体臭が便所と変わらないのだ。

汚物だ。


「……これしかなくて、ごめんなさい。汚いですよね。」


「はい!とても汚いと思います! それにすごく臭いです!」


そう満面の笑みで告げる女の子。

女の子は可愛いが諒平は今にも泣き崩れそうな顔をしている。


「もしかしてお風呂入ってないんですか?」


「……無いわけじゃないんですが色々事情がありまして」


4日前に水道は止まっていた。

延滞が渋滞し過ぎたよう。


「うちのお風呂良かったら使って下さい!」


「……え?! 良いんですか? 僕は今日初めて会った男ですよ!? 勿論、非社会的な事はしないと誓いますが流石に……」


「その体臭が非社会的だとは思われません?」


「……すみませんギブアップで……」


これ以上無い悪口を叩き込まれた諒平は涙を堪えた。


「どっぞ〜」


まだ名前すら知らない女の子の部屋へ入れて頂く。

異常な程の緊張感と共に、諒平は異世界転生をそこで初体験する。

同じ間取りが更に転生感を強めていた。

引っ越してきたばかり、というのもある。


「うっ……、臭います……」


「決してテロリストではないですよ」


「無意識のテロってどれだけ凶悪なんですか!? 」


決して返せない問いを投げ込まれた後、諒平はお風呂場へと投げ込まれる。


「ちゃんとヒゲも剃ってくださいよ! 魔法学校の校長じゃあるまいし! 」


「……はい」


ポキャブラリーの多さに戸惑いつつも、諒平は喜んでいた。

数分前に現実という刃を前に泣き崩れていた男が喜んでいたのだ。


理由はいたって単純。

女の子と話せたから、だ。


囚人服の下位互換である服を脱ぎ、この世に生を授かった時の状態になった後、脱いだ衣服の臭さにまたも泣きそうになるが、決死の思いで横にスライドさせる型のドアを開き浴室へと入る。

白い壁に白く光るライト、本物の綺麗とは何かを諒平は学んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


この世の者では無いと思われても仕方ないだろう。

4日ぶりのお風呂をこんなに気持ち良く感じた事は無いのだから。

誰かに優しくされる事を久しく忘れていた諒平。


暖かな温もり入りのお湯と共に、またもや涙がこぼれ落ちる。

なんて安っぽいのだろう。


シャンプーをし、コンディショナーで傷んだ髪をケア。

ボディーソープでエデンの園へと。

その泡立ちは弱酸性。

まさに産まれた時を思い出していた。



その後、本来であれば部屋の主である女の子が使ったであろうお湯を2日分は消費し、シャワーを浴び終えた諒平。


「ありがとうございましたぁ!!」


女の子がボーイッシュな服を持っていた為、それを貸して頂き、晴れて囚人服の下位互換とおさらばできた諒平は即座、女の子に深々と頭を下げた。


「……どちら様で……!?」


「え!? 僕ですよ!」


「僕……? あっ! 僕! 汚い人ですねー!? 」


「……否定……できないッ……!!」


「見違える程キレイです! さっぱりです!」


見間違えられた事に嬉しさをほんの少し感じながらも、諒平はヒゲを剃った後のジョリジョリ感を楽しんだ。

もう不潔と肩を組む事は無いだろうと。


「そういえば名前聞いてなかったですね! 」


だいぶ遅くはなったがようやく女の子の名前を訪ねる諒平。


「あはは、僕は辺野……」

「あ! いけないいけない! 名前を聞く時は自分から

ですよね!私は 木沙羅 真仲 っていいます!」


自分の自己紹介を遮られた事に驚愕した。

一体どんな武闘派に育てられたのだ、と。


「……ぼ、僕は 辺野 諒平、18です」


「18歳ってことは……大学生ですか!? いいな〜大学ライフ満喫してるんですね!」


耐えろ。

そうとしか言えない。



「……大学は落ちました。」

「えー!それはごめんなさい。私とても失礼なことを……」


お前の勝ちだ諒平。

よくぞ耐えた。


「いえ、大丈夫です」


今すぐにでも誰かに会って泣きたいと思う諒平。

真性の甘えん坊な彼は自ら縁を切ってしまった母親を思い出す事が多々ある。

それを思い出す瞬間は"匂い"だ。

特に諒平の母は料理がまったくできなかった為、週に5回カレーを作るという偉業を成し遂げた人物。


泣きながら食した事もあって諒平のカレーに対する嗅覚だけは異様に発達していたのだ。


「……これは……カレー!」


「よくわかりましたね!カレー作ったので良かったら召し上がっていきませんか? 仲良くなった記念です! 」


「え、いいんですか!?是非! 仲良くなったかはわかりませんが!」


実はカレーに飽きていたのは言うまでもない。




読んで頂きありがとうございました。

また、チラッと見た。そんな方もありがとうございます。

是非、感想やご意見、アドバイス等頂ければ幸いです。どんどん更新します。

しつこいようですがありがとうございました。

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