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お坊さんの読経はものすごく長かった

「あの日、みやさんと最後に会ってから、通夜がありました。僕はちょっと寝ちゃってたけど。翌日にお坊さんが来たけど、じいちゃんとばあちゃんは『まだ形栖の方が来ない』、みたいなことを言ってました。何度か電話もしたのに、出ないって。ていうか、繋がらないって。向こうの電話の電源が入っていないのかもしれないって言ってました。


 しょうがないからって、お葬式が始まった。

 ……あ、家族葬ってやつで、じいちゃんとばあちゃんと、僕と両親以外はいませんでした。受付ってやつもしませんでした。


 着席して、お坊さんがお経を読みます。

 席が一つだけ空いていましたけど、あれはきっと形栖家の人の分だったんだと思います。


 そのまま僕は、前日のことを思い出さないように、そこに座っていました。

 ……前日のことっていうのは、みやさんには言いましたが、愛理の遺体が動いたことです。もっとも、僕の見間違いか夢かもしれませんが。僕はまだそのことを引きずっていて、……こう言うとなんですが、葬儀中はずっと、その部屋に居たくないって思いました。薄情ですけど。愛理は朝から棺桶に移されていましたけど、とにかくあっちを見たくないって。


 お坊さんの読経はものすごく長かった。

 ずっと正座しているのも慣れないけど、みんな静かにしているし、なかなか動けなくて……。


 ふと、声がしました。

 か細い声でした。

 じりじりと、単語を途切れ途切れに言っているみたいな。

 壁の隙間から吹いてくる風みたいに高くて、ひょろっとしてて、

 それが、この場の誰の声でもない。

 それじゃあ誰だって、思って。

 僕は声をたどりました。耳を澄まして、読経にまぎれた細い声だけを探って、そうしているうちに僕は、気付いてしまいました。

 ……その声は、前方から聞こえていたんです。

 愛理の棺桶の中から発されていたんです。


   ゆめは あきらめない

   こいだって いつだって

   せかいは あなたの ためにある

   だれでも ない あなたの ために


 それが繰り返しです。

 固まった喉から無理やり絞り出したみたいに細くて、平坦で、機械がしゃべっているみたいだった。

 よくよく聞いていると、それはたしかに、愛理の声だった。


 ……僕はもう一つ気付きました。

 その歌は、一昔前に流行ったアイドルの歌でした。


 読経を終えるのと同時に、家の電話が鳴りました。

 じいちゃんとばあちゃんは一瞬出るのを迷っているみたいだったけど、お坊さんが『出た方が良いです』みたいなことを言うから、じいちゃんが急いで電話に出ました。


 形栖家の人からで、ここに向かう途中で事故に遭ったっていう電話だったみたいです。あとがちゃんって鳴ったから、じいちゃんが電話を取り落としたのかもしれません。

 お葬式は終わりました。

 けどお坊さんが、じいちゃんとばあちゃんに、何かあれば相談してくださいって言ったのが聞こえたから、……たぶん、何かあったのかなって。具体的には言えないけど、何か、あったんじゃないかなって。


 それから、愛理の歌がずっと頭に残ってます。

 もしかしたら、僕はこのまま東都に戻っちゃいけないんじゃないかなって思いました。確信とかじゃないけど、なんとなく」


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