もういいよ
奏多は布団に入り直して、今日のことを思い出していく。
風呂の後、友人と二人、縁側で涼んでいた時のことである。
みやが「明日の下拵えをしてきます」と行ってしまったのを見計らって、如月蓮見が監視員のようにやってきた。
そこでなんとなく訊ねてみようと思った。
友人には暗いことを聞かせたくなかったけれど、これ以上嫌われる恐れのない彼にならと。
この家のことではないから、お泊り会のお約束第二条的にも許される問いだろう。
『どうしてあの子は、言ってくれなかったんでしょう。虐待なんて、言ってくれたら』
言ってくれたら?
何かができたのだろうか。
歯切れの悪い奏多の問いに、
『母親を庇ったのかもしれないな』
と、如月蓮見は言った。
虐待の被害に遭った子供は、それでも親を庇うことが少なくないと。頭が痛くなっても、その原因が親だからこそ、誰にも言えなかったのかもしれない。
『一般論だから、実際は知らないけど』
付け加えて、彼は去った。
存外真っ当な答えを返してくれたことには感謝する。その応答を経て、考えて考えて、結局奏多は、母親を庇った論を却下することにした。
――自分に酷いことをした親を庇うって。そんな風に死んだなんて、おかしい。あの子はわたしよりずっと頭が良かった。どうするべきか、本当はわかっていたはずなのだ。そんな話が本当なら、あの子も可哀想で、わたしも可哀想で、誰も救われないじゃないか――。
それでは、どうして?
わからないから、朝になったらじっくりゆっくり代替案を考えていくことにした。
暗闇の中、奏多は片腕を両目に乗せた。目じりから伝う涙が、借り物の枕にまで染みていく。
宇宙飛行士になりたい。
何を寝ぼけていたのだ、と思う。
すべては夢だ。本気で叶うとも思っていなかった寝言だ。
彼の代わりに宇宙へ行きたいとか、お星さまになった彼を見つけてやるとか、そんな積極的な寝言ではなかった。
わかっていたのだ。
自分は結局、彼の影を追っていただけなのだと。
そんなちっぽけな理由で、寂しさが暴走した恋心で、子供みたいにしがみついた。ただそうしていれば彼を忘れないという、それだけの浅ましさで、わたしは。
「……ねえ、」
顔も忘れてしまったきみ。
『綺麗だね!』
あの時、本当は、流星群なんて見えていなかったの?
わからない。
わからないけど。
わたしは目覚めなければいけないのかもしれない。それであの子を忘れてしまうことになったらどうしようって、それだけが怖いけれど。
やがて意識が沈んでいく。
夢の瀬戸際、枕元に座った誰かが頭を撫でた。
もういいよ。
きみが笑っていてくれるなら。
それだけでいいんだよ。
別のところで書いてたらやけに細切れになってしまった




