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第3章 ジャガーズ

「おいそこのお前! BBBやろうぜ!」

 ホテルを出るなりいきなり声をかけられ驚く。声の主は何やらカクカクした髪型の男だった。何か俺、驚いてばっかりだな。そういやBBBって何だ?

「おい! なんとか言えよ!」

「えーっと……BBBって何ですか?」

「お前チュートリアル終わったばっかりじゃないのか? ベースボールバトルの事だよ! 本当の初心者のようだな」

 男はニヤりと笑った。お姉さんからホームランを打ったあれか。

「ハンデはいらないよな? ハンデとかダサいし」

「はあ、良いですけど」

「ふっ馬鹿め。後悔しても知らないからな」

 男がそう言うと街中から野球場へと周囲が変わった。

「俺は投手だ。お前は野手か。早くバッターボックスに入れよ」

 言われた通りに入った。足元からバットを拾い構える。

「初期バットで打てるもんかよ。打てたら良いよなぁ?」

 早く投げろよ、一々うるさい奴だ。

「最近上がった総合評価Fの投球受けてみろ!!」

 そう言い男は球を投げた。外角低めのストレートだ。球速はお姉さんより少し速いものの、簡単に打てそうだ。バットを振る。いい音が鳴る。ボールは高々と舞う。センター方向に伸びる。落ちていった。バックスクリーンへ入った。ホームランだ。景色が街に戻る。

「お、お前初心者じゃねーのか? 何だよその打撃は……。覚えてろよ!」

 男は去っていった。すると目の前に先程のホログラムのように502B 打撃力+10 走力+1 守備力+1 GETという文字が浮かんできた。お姉さんに説明されたお金と経験値だろう。

 落ち着いてきたので辺りを見回してみる。どうやらここは石造りの建物の街のようだ。窓以外は全て石で出来ている。明らかに日本の街とは雰囲気が違う。様々な店が見て取れたが、奥の方に超巨大な楕円形の建物が見えた。あれは何だろうか。とりあえずあれを目指してみるか。

 あっ、そう言えばヘルプを使おうと思っていたんだった。

「ヘルプ!」

 フォンッと言いながらモニターが現れた。色んなメニューがあり、どれを選べば良いか迷ったが左下にマイクのマークのボタンを見つけた。これって音声入力だよな?

「CPUって何?」

「CPUとは自動で動く選手の事です。プレイヤーではありません。ロボットのようなものです」

 なるほど、BBE側が用意した人数合わせなのか。という事はお姉さんもCPUって事なのかな。

 この時ふとモニターの左上を見た。そこには自分の名前が書かれていたが”コータ”と”さん”の間に変なスペースが入っていた。何だこれは。名前を入力した時の事を思い出してみる。勢いよく打ち込んだ覚えがある。その時に変なボタンでも触ってしまったのだろうか。どうりでお姉さんが俺の名を呼ぶ時に変な間があった訳だ。うーん、名前の変え方もよく分からないしこのままで良いか。モニターの×を押し、俺は歩き出した。


 楕円形の建物へ向かう道中は厳しいものだった。少し歩けばすぐにBBBを挑まれる。その度に余裕の勝利をした。BBB自体は勝てるが、やたらと挑まれるので大変疲れる。何でこんなに来るんだ。次に挑まれたら流石に断ろう。そう思っていると女の子から声をかけられた。

「ねえねえ! BBBしようよ!」

 その子は肩まである髪の毛を二つ結びし、つぶらな瞳でこちらを見ていた。中学生ぐらいだろうか。こんな時間にゲームしてて大丈夫なのか?

「ごめんね。さっきからBBB挑まれてばっかりで疲れたんだ。また今度にしてくれないかな?」

「そっかざんねーん。でもでも! そんなに挑まれてるって事はめちゃくちゃすごい初心者って君の事かな?」

「とりあえず全勝はしてるけど」

「やっぱりそうだ! 君この辺でかなり噂になってるよ〜」

 ほんの少しの時間でそんなに噂になっているのか恐ろしい。

「実は私プロ野球選手やってて君をスカウトしに来たんだ!」

「プロ野球選手!?」

 この女の子が?

「そう! ジャガーズっていうチームなんだよ! でも全然勝てなくて弱いの……。だから君がジャガーズに入ればチームは強くなるんじゃないかってキャプテンが!」

 プロ野球チームからスカウトされるという夢のような出来事に現実を受け止められない。

「どう、かな?」

「もちろん入らせてもらうよ!」

 我に返り二つ返事で答えた。当たり前だ。プロ野球選手は子どもの頃からの夢だったから。

「やったぁ! あっ、でも入団テストは受けてもらうね。一応ルールだから」

「もちろん」

「じゃあジャガーズの本拠地ジャガースタジアムに案内するね。ここからすぐだから!」

「この辺に野球場なんて見当たらないけど」

「あのでっかいのが野球場なんだよ!」

 俺が目指していた楕円形の建物はどうやら野球場らしい。よく考えたら野球VRなので当たり前か。

「そういや私の名前を言ってなかったね。私はノノ。よろしくね!」

「俺はコータ だ。よろしく」

「え? 何その間」

「実は名前を入力する時に間違って変な所触ったみたいでスペースが入っちゃったんだ。変え方分からないしそのままでいいかなって」

「ふふふっコータ って面白いね〜」

 ノノと楽しく話しながら歩く。

「そういや何で俺こんなにBBB挑まれたんだろう」

「あーそれは初心者狩りってやつだね」

 初心者狩り?

「初心者ならすぐに勝てるからそれでお金を稼いだり、普段のストレスを発散させたりしてる人達だよ。どっちにしてもマナー違反だからやったらダメだからね?」

 あのカクカクした髪型の男はそういう目的だったのか。

「BBE治安悪くない?」

「どのゲームでもよくある事だよ。まあ後半は噂を聞いて興味本位で挑んできた人達かもしれないけどね。私みたいに」

「へ〜よく分かるね」

「エッヘン!」

 誇らしげなノノはかわいらしかった。こんなにかわいい女の子が野球好きでプロ野球選手とはすごいもんだ。

「そういやノノは女の子なのに野球が好きで上手いんだね。いつから好きなの?」

 そう俺が言うとノノは(うつむ)いてしまった。

「ごめん! 失礼な言い方だったかな?」

 ノノは口を開く。

「あー……実は私、男なんだぁ」

「え?」

 え?

「いわゆる”ネカマ”ってやつだよ。私アニメオタクだからかわいい方がモチベーション上がるし。そういう人結構いるよ」

「そうなんだ……」

「こんな見た目だけど実は成人もしてる」

「そう……なんですね」

 思わず敬語になってしまう。

「敬語はやめやめ! オンラインゲームではタメ口で話すのが普通なんだよ! あっ、ジャガースタジアムに着いたよ!」

「わかっ……た」

何だか()に落ちないが球場内部へと入っていく。


「キャプテ〜ン! めちゃくちゃすごい初心者連れてきたよ〜!」

 球場内部の通路をしばらく歩き、ダッグアウトからグランドへと降り立った。

「ノノくんお疲れ。君がその初心者か」

 キャプテンと呼ばれた人は短髪でスッキリとした、いわゆるしょうゆ顔の男性だった。年は30歳ぐらいだろうか。いや、中身はそうとも限らないのか。ノノの件で疑心暗鬼になっている。

「俺の名前はダンだ。このチームのキャプテンをしている。ダンでもキャプテンでも好きに呼んでくれ」

「分かった。キャプテン」

 俺は野球部なのでキャプテンと呼ぶのに慣れている。

「頼もしい返事だな。入団テストの件はノノくんから聞いているな? 早速今から受けてくれ」

 俺は(うなず)いた。

「ルールを簡単に説明しよう。総合評価EのCPUが10球投げる。その内3球以上ヒットを打ったら合格だ。なぜCPUが総合評価Eかと言うと、今のプロ野球の平均がこれぐらいだからだ。これから先レベルが上がっていけばさらに高いレベルのCPUを使うかもしれないが、今はとりあえず総合評価Eだ。ちなみに、ボール球はカウントされないからちゃんと見逃してくれよ」

 これまでのBBEで相手したプレイヤーより高い総合評価で少し緊張するが、総合評価Cが負けるわけにいかない。

 バッターボックスへと入る。守備にはプレイヤーがつくようだ。ノノやキャプテンをはじめとしてジャガーズの選手達が散らばった。ノノはセカンドでキャプテンはサードなのか。

 CPUが現れた。俺はバットを構えた。CPUが振りかぶり投げる。ストレートだ、しかし速い振り遅れる。それでも流し打ちでライト前ヒット。2球目は内角へのストレート。今度は振り遅れず引っ張りレフト線へのツーベースコース。3球目はカーブ、変化球もあるのか。タメを作り上手い事タイミングを合わせてセンター前ヒット。この調子でボール球を除いた9球目までヒットを打ち続けた。そして最後の10球目。真ん中付近のストレートを左中間へのホームラン。完璧だ。

「まさかここまでとは」

 キャプテンがそうつぶやきながら俺の方へやってきた。他のみんなも集まる。

「文句なしだ。今日から君はジャガーズの一員だ。今の四番は俺だが、譲る事になりそうだな」

「え!? キャプテンいいの?」

 ノノが思わず声に出す。

「ここまでの実力を見せられたら譲るしかないだろう」

 キャプテンは四番を取られてしまうのに嬉しそうだった。本当にチームの事を考えているのだろう。

「おいノノ! お前は人の心配より自分のレギュラーが取られないかを心配しろよ」

 他の選手から茶々が入る。

「は? そもそも人が足りてねえのに取られるわけねえだろ!」

「男言葉になってるぞ〜」

「うるせえ!」

 みんな笑っていた。俺も笑った。いいチームに入れたようだ。

「明日の19時には公式戦がある。また来てくれ」

 キャプテンのその言葉に「はい!」と返事しようとしたが急に意識が遠くなってきた。目の前が白くなる。なんだこれは貧血か?


 気が付くと見覚えのある天井を見つめていた。

「おかえり。どうだ? 楽しかったか? 気晴らしどころか良いイメージトレーニングになったんじゃないか?」

 おじさんだ。

「悪いがもう閉店時間だから電源を落とさせてもらったよ。データはオートセーブ……自動的に保存されるからそこは心配するな」

「はあ」

 頭の整理が追いつかない。

「それよりもう22時だけど大丈夫か? 家の人に怒られるだろ」

 え!? もうそんなに時間が経っていたのか。「ありがとうございました」と一言お礼を言ってから荷物を持ち、走って帰った。ホームランを打った感覚が手に残っていた。

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