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プロローグ 冴えない耕太

「ゲームセット!」

 主審の高らかな声が響き渡る。我が高校野球部の敗退が決まった瞬間だった。悔しさのあまり泣くチームメイト達。春季大会のため、まだ引退ではないもののそれだけ真剣だった事がうかがえる。俺は泣いていなかった。俺には泣く資格があるのか。俺はスタンドから試合を見ていただけだった。


 野球は好きだ。子どもの頃からずっと変わらない。昔親父に連れて行ってもらったプロ野球の試合を今でも覚えている。壮絶な点の取り合い。逆転からの逆転。満塁のピンチで三振を奪いガッツポーズをとる投手。大飛球に飛び込み見事グラブに収める外野手。そして、最後の最後にサヨナラホームランを打った四番打者。その瞬間、球場は一度静まり返り、そして湧き上がる。すぐに魅了された。その時に思った。俺もこの舞台に立ちたい。


 しかし、現実は甘くない。野球を見に行ってすぐ、親父に頼んで少年野球チームへ入らせてもらった。イメージはあの四番打者だ。バットを振る。だが、ボールはバットに当たってはくれない。最初はそんなもんだと思った。いきなりホームランを打てる奴なんていない。努力すればきっと必ず……。そんな未来は来なかった。


 今は高校三年生。次の夏季大会で高校野球を引退する。野球を続けて早10年が経とうとしている。この今の今までレギュラーになれたことはなかった。高校生になってからはベンチ入りすらできていない。ホームランも打てない。大飛球に向かって飛び込もうものならボールは後ろに転々とする。なぜ上手くならない。


 春季大会で負けた次の日も普通に練習があった。今は外野の守備練習中だ。しかし、身が入らない。

「おい耕太。次お前の番だぞ」

 チームメイトに声をかけられてハッとする。コーチにノックを打ってもらう時は「お願いします」と声を出さないといけないがいつもより声が出ない。

「なんだその声は……。おい、集合!」

 集合をかけられてしまった。場の雰囲気が悪くなる。

「おい桜田。なぜ声を出さない」

「すみません」

「謝れと言ってるんじゃない。負けたからと言って落ち込むな。まだ夏があるだろ。これからまた頑張ればいいんだ。」

「はい……」

「まあいい、皆戻れ」

 チームメイトから笑顔で肩を叩かれる。違うんだ。負けたのが悔しくて声が出ない訳ではない。俺は……俺は……。


 その日の帰り、チームメイトから飯に誘われたがそんな気分ではなかった。今日は親が早く帰ってくるから、と適当な嘘をつき一人で帰った。帰り際、幼なじみの上野さくらが話しかけてきた。さくらは野球部のマネージャーをしている。

「耕太くん今日元気なかったけどどうしたの?」

「別に普通だよ普通」

「コーチに目を付けられてたじゃん。坂谷(さかや)くんにも肩叩かれてたし」

「気にしすぎだ。今日はもう帰りたいから」

「わかった……」

 さくらを置いて帰った。なんで俺なんかを心配するんだ。幼なじみの俺から見てもあのロングへアに整った顔立ちには時々ドキッとさせられる。なぜ彼氏を作らないのか不思議な程だ。俺を心配してくれるのは幼なじみ故の優しさか。


 さくらのことを考え少しは気が紛れたが、やはり気持ちは沈んでいる。帰りたいと言ったものの本音ではまだ帰りたくない。もう少し気持ちの整理がしたい。いつもの通学路から一本、道を外して遠回りをする。


 しばらく歩くと個人経営と思われるゲームセンターが目に入った。へえ、こんな所に店があったのか。店先の張り紙には「最新VRゲーム入荷しました!」と書いてあった。いつもなら素通りしてしまうが、今日はなんだか入ってみたいと思った。いい気晴らしになるといいな。そう思い、()びた引き戸を開けた。



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