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#01-2:友、達…

清楚な制服の他にシェリルの首には革製の黒い首輪が付けられており、その中央には、狼を象った銀のレリーフが付いている。それはアンデルセンという一族の家紋であり、ラルク同様上流階級の人間であるという証だった


「これから宜しくお願いします。ラルク・ヘイルフラムさん」


そしてラルクはその家紋を、アンデルセンという血筋を知っていた。だからこそシェリルに対する戸惑いを感じる


(予想外…アンデルセンと言えば、好戦的で身内間でさえも争いが絶えない戦闘狂の血筋…だから、喧嘩でも売りつけられるかと思ってたのに…)


例え売りつけられても適当にあしらって帰るつもりだったが、シェリルの口から発せられた言葉は意外な物だった


「えっと…いきなりなんですが、僕は、君と友達になりたい……です」


「あぁ、友達…え……?」


不意に聞こえた言葉──"友達"

久し振りに聞いた様な響きのそれは、ラルクを更に戸惑わせた


「友、達…」


「そう、友達。あ……僕みたいなのは…嫌、かな…?」


シェリルが、恥ずかしそうにしながらラルクを見つめる──狙っているのか天然なのか、その瞳はうっすらと潤み、尚且つほんの少し首を傾げつつも左手で添える様に唇を押さえ、疑問系の口調で儚さを伴いつつ言葉を放つという奇跡的な、並大抵の男ならその一撃でハートを鷲掴みにされる位の高等技を行っていた


「え?あの、シェリル…さん?」


しかしその表情を見たラルクは勘違いをする──私のせいか。私の冷たい対応のせいでこの子は泣きそうになっているのか


「…やっぱり戦闘狂のアンデルセンの血筋は友達にするの、嫌…ですよね……」


しゅんとするシェリル──やめて!気まずい!気まずいから!


「い、嫌じゃない!私、あなたが友達になってくれるの、全然嫌じゃないです!」


先程までの余裕のある表情から余裕が消え、心中の戸惑いが表情と口調に表れる


「…本当……?」


尚もシェリルが潤んだ瞳で呟く


「う……本当…です」



気圧されながらラルクが答えると、急に表情を輝かせるシェリル


「ありがとうヘイルフラムさんっ!」


「あっ…わっ!?」


そう言いながら勢い良くラルクに抱き付くと、勢いを止められずにシェリルごとラルクが床に倒れ込んでしまう


「ちょっ、シェリルさん!?」


「友達!初めてなの!」


「──!」


"友達"──聞き間違いかと思ってしまうその言葉が再び、ラルクを揺さぶる。ぴったりと重なった身体から一瞬だけ高鳴った心臓の鼓動が、シェリルに伝わってしまうのではないかと思う程に


「ずっとこの家紋のせいで友達、出来なかったから…だからヘイルフラムさんが友達になってくれて凄く嬉しい!」


(?)

「家紋…?」


うん、と相槌を打ち、シェリルが少し悲しそうに笑って話す


「この首輪は、闘争を行う時以外は外せないんだよ。知ってるかもしれないけど、アンデルセンはずっと前から一族通して一人の例外も無く狂戦士の血筋。だから狂暴過ぎる闘争本能を制御・抑制する為に、特殊な素材を用いた魔符を守護魔法を施した銀と一緒に固めた拘束具を常に身に付けてなきゃいけないの。それが僕の場合この首輪の銀のレリーフなんだけど、これに描かれているこの家紋…狼を象ったこの家紋を見ると、友達になってくれたら良いなって思う同じ位の年の子どころか、にこにこしながら近付いてくるロリコンのおじさんも、路傍でナンパしてくる下心丸見えのお兄さんも、時々出くわす血走った目の強盗でも、この家紋が目に入った途端に化け物を見るような目に変わるんだよね」


アハハ、と悲しさを滲ませた笑顔を作りながら、彼女は初めて出来た友達を抱き締めた


「だから嬉しい。宜しくね、ラルク・ヘイルフラム」


「わ…ぅ……」


戸惑うラルク──しかし抱き締められて気付いた、シェリルからほのかにするひまわりの匂い


「えへへ」


彼女の元気な笑顔の印象とぴったりと重なる匂いが心地良く、いつの間にか悲しさを微塵も滲ませていない、自分の上で脚をパタパタと上下させる彼女に、自然と言葉が漏れる


「……宜しく……シェリル…さん」


「あー、シェリルでいいよ?だから僕も君の事、ラルクって呼ばせて」


ひまわりの様な笑顔が咲き、楽しそうな声が教室内に響く、午前11時20分


「宜しく、シェリル・アンデルセン」


天才的な才能を持つ召喚師の卵と


「えへへー宜しくね、ラルク・ヘイルフラム」


己に流れる狂戦士の血の宿命に翻弄される少女


「あの、シェリル…お願いがあるんだけど」


「うん?何かな?」


二人は今日出会い、友となり


「そろそろのいてくれない…かな?重いし、お父様やお姉様以外にこんなに密接されるのは慣れてなくて…」


何の気なしに学園生活を送っていく。仲良く、浮き浮きと咲き誇りながら


「あぁっごめん!嬉しかったから、つい…でもほら、僕達」


二人は歩んでいく。一人は、未だ理解すらしていない強大な力を磨く為に。一人は、自身が最も身を持って理解している、狂暴な力を更に制御する術を身に付ける為に


「友、達…でしょ?」


悠然として、二人は歩んでいく

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