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第八猫 見習い兎の仕事選び

「そう、言ってなかったわね。冒険者ギルドから、出来るだけ多くの依頼を受けさせるよう言われているから、依頼中の奉仕活動と授業は出なくてかまわないわ。変わりに、依頼で得た報酬の半分を教会が受取るわ。その辺の手続きに関しては、ギルド側が行ってくれるから、受取った報酬は二人の自由に使っていいわよ。」


というのが、見習い冒険者についての問い合わせた際のマーサの回答である。給料の半分を天引きとか鬼ですか?と思わなくも無いが、衣食住は保障されていることもを考えると、実家暮らしで家にお金を入れているのと変わらないのか。

まぁ、今までは奉仕活動でただ働きだったわけだから、給料が出るだけでもかなりのグレードアップだよな。

その証拠に、その話を聞いたアインとエルの顔に不満のふの字もない。


「え?本当に、貰ったお金は自由に使っていいの?」

「えぇ、かまわないわよ。ただし、これは2年後の独立の準備を兼ねているって言うのは忘れないで頂戴ね。独立するということは、衣食住の生活の責任を全て自分で負うということよ。少なくとも当面の生活資金が溜まるまでは、今日みたいなお金の使い方は止めたほうがいいわよ。」

「え?」

「マーサさん、何を買ったか知ってるんですー?」


驚く孤児っ子二人に対して、口角を上げるマーサ


「具体的に何を買ったかまでは判らないけど、もうお小遣い無いんでしょ?毎年どの子も変わらないのよね。」


なるほど、実際に給料を与える前に、給料を貰った時のシミュレーションをさせたわけか。物流が決して多くはないこの世界、いつもならお金があっても欲しいものなんて無いかもしれないが、それを商品がいっぱい集まるお祭りの日にお金を渡すことで、物欲を刺激させると言う小憎たらしい演出。

本編で同じ轍を踏ませないために、チュートリアルであえて悔しい思いをさせるとは、なんともよく出来たシステムだ。


「それで、二人は何を買ったのかしら?」

「私はこれ!」


エルが懐から狐の刺繍のハンカチを取り出し、他のお店を見て後悔したエピソードを交えて話だした。マーサさんは、所々相槌を入れながら優しい笑みをエルに向けている。この人はいつも厳しいことを言っているが、根はすごく優しく、子供思いの人なんだ。時々自室で1人反省会をしているの、この猫は知ってますよ。


「そうなの、いい買い物が出来てよかったわね。あら?アインは何も買わなかったの?」

「えっと、私はー」


アインは最初髪留めを買おうとして思いとどまったところから話始めた。そして、最後に串焼きを買った話の途中で、ばっとマーサがアインに抱きついた。マーサの瞳が過剰に潤っているのが、俺からよく見える。


「え、えっと、マーサさんー?」

「はぁ、貴女はもう、本当にいい子に育って。」


わかる、わかるよ。その気持ち!俺も人間だったら迷わず抱き締めてたもん。まぁ、成人男性の俺が12歳女児を抱き締めてたら、事案な臭いがぷんぷんだけどな!止めてください!おまわりさんこちらではないですよ!


「ふぅ、ごめんなさいね。二人とも今日は良い経験が出来てよかったわね、明日から見習い冒険者のお仕事頑張るのよ。それじゃ、おやすみなさい。」

「「はい、おやすみなさい」」



翌日、朝食から朝のお勤め、授業と言う普段どおりの流れを終えたアインは意気揚々と教会を飛び出した。本当は昼食を食べてから出る予定だったが、アインは待ちきれなかったようで、サンドウッチを作って貰っていた。

エルは鐘撞き当番なので別行動だ。奉仕活動も別々の場所で行うことが多く、実は、いつも一緒というわけではない。アインといつも一緒のなのは、黒猫のカイことこの俺ですよ。


授齢祭が終わったので街はいつもの平穏を取り戻している。かというと、そんなことはなかった。近隣の農家や村民は昨日のうちに引き上げてしまっているが、行商人は一週間くらい滞在するのが一般的なようで、昨日ほどではないにしろ、大通りの脇には露店が並び、往来の人も少なくない。


露店を冷やかすこともなく、人と人との間を鮎のように泳ぐと、すんなりと冒険ギルドに辿りつく。俺は人の気配が薄い中を進み、カウンターへ飛び乗った。勿論、アインはちゃんと椅子に座っている。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」


カウンター向かいの受付嬢が綺麗なお辞儀を見せた。青みがった長い髪と、すこし垂れた碧い瞳、マゼンダさんとはタイプの違うおっとり系美人さんだ。服はマゼンダさんと変わらないから、これがギルドの制服なんだろう。


「あのー、依頼を受けに来ましたー。」

「はい、それでは冒険者証をお願いできますか?」

「冒険者証ですー?」

「そのお首から下げられているのが冒険者証となります。」

「あ!」


昨日依頼を受けるときに必要と聞いたのを思い出したのか、アインは慌ててチョーカーを外し、受付嬢に渡した。

受付嬢は冒険者証を何かの機械に翳すと、手元の石版を確認していく。スキャナーとタブレットみたいなものだろうか?凄く気になるけど、こちらから覗いている分にはよくわからない。くっ、こういう時喋れないって不便だよな。


「はい、確認が取れました。アイン様ですね。初めまして。私、このギルドで受付を担当しておりますシアンと申します。」

「えぇ、様付けとかー。アインでいいですよー。よろしくお願いしますー。」

「いえ、私どもは、冒険者様をサポートするのが仕事ですので、敬意を込めてお名前を呼ばせていただいております。」


はぁ、それは随分とお堅いことで。昨日のマゼンダさんは、一発で敬称なしになったんだけど、人によってスタンスが違うのかな。


「それでは、アイン様、初めての依頼となりますが、何かご希望はございますか?」

「希望ー?基本的に色んな職業の雑用って話ですよねー?どんな依頼があるんでしょうー?」

「少々お待ちください。」


シアンさんが再び石版に視線をおとす。


「今アイン様にご紹介できますのは、露店の手伝い、食堂の手伝い、庭の草むしりとなります。初依頼ですし、個人的には、食堂の手伝いをお勧めいたします。」

「食堂。それって、カイを連れて行っても大丈夫でしょかー?」

「……カイ様、というのは」


シアンが首をかしげたので、俺はみゃぁと一鳴きした。


「そちらの猫さんですか。……食堂なので難しいかもしれません。少し時間を頂ければ、先方に確認させていただきますが、いかがいたしましょう?」

「んー、今日は依頼を受けに来ただけなので、あんまり時間がかかるのはちょっとー。他の依頼で、カイと一緒に受けれそうなのはありますー?」

「そうですね、この露店の行商人さんは動物好きな方なので、恐らく問題ないかと思います。」

「それじゃ、露店の依頼を受けますー。」

「はい、専門的な経験は望めませんが、よろしいですか?」

「専門的な経験って何ですー?」

「えっと、アイン様は、経験値による恩恵(ギフト)発現説というのをご存知ですか?」


アインは一瞬左右に視線を動かすと、思い当たらないなぁーという顔で首を左右に振った。


恩恵(ギフト)に関する論説はいくつかあるのですが、これはその中の一つで、恩恵(ギフト)とはそれまでに積んだ経験が形になったものとする説です。例えば、幼少期より剣術を学んでいた子は『剣』の、弓術を学んでいた子は『弓』の恩恵(ギフト)が発現する。だから、小さなうちから自分が望む恩恵(ギフト)に関する経験を多く積むべきだという考えです。」

「え?それ、本当なんですー?」

「事実かどうかは定かではありません。ただ、数ある論説の中で多くの支持を受けているのは確かです。私個人としましては恩恵(ギフト)は先天的に神より与えられし恩恵であるという説を支持してますので、どんな手段であれ自分の好きな恩恵(ギフト)を発現させようというのは傲慢だとも思うのですが。」


確かに、神から与えられる才能がランダムではなく、自分で選べるなら、そんなに素晴らしいことはないだろう。ただ、何もしないならまだしも、それに向かって努力するのだから、傲慢とは言いすぎではないだろうか。

とはいえ、神がらみの話。宗教だ。宗教観をつついて幸せになれる未来がみえない。そういう考えもあるんだー程度にとどめておこう。まぁ、藪をつつこうにも、俺はみゃーしか言えないんだけどねっ。


「ただし、経験を積むことで、身体の中に眠る恩恵(ギフト)を刺激し、目覚めるのを助けるという所には賛同できますので、アイン様には多岐に渡って依頼を受けていただきたく存じます。」

「んー、専門的な経験に関わらず、色んな仕事を経験してみるのが大事って事ですねー。とりあえず露店のお手伝いを受けますー。」

「はい、承りました。では、こちらをお返しします。」


シアンは石版を指でなぞった後、謎の装置から外した冒険者証をアインへと手渡した。


「依頼主様には今日中に話を通しておきますので、アイン様は、明日現地へ直接向かってください。場所は東通りの食堂の向かいで開いてるベリル様の露店です。時間の指定はございませんが、お昼の鐘までには到着なさって下さい。後、仕事終了後の報告は、三日以内にお願いします。」

「明日のうちに報告しなくても大丈夫なんですー?」

「えぇ、大丈夫です。見習い冒険者様の多くは、前依頼の報告と新規依頼の受領をする日と依頼を行う日を交互にされる方が多いですね。」

「わかりましたー。私もそのリズムでやってみますー。では、またー。」

「はい、初依頼、頑張ってください。」


深々と頭を下げるシアンに見送られ、アインと俺は奉仕活動中の仲間の元へと向かった。

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