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第五猫 兎の思い、猫の思い

飼われることになったその日のうちに、ウサ耳少女の部屋(と言っても個室ではなく4人部屋だが)に連れて行かれ、ルームメイトの四人がに取り囲まれた。各々が自分を指差して同じ単語を繰り返しているから、自己紹介をしてくれているのかな?あ、ウサ耳少女はアインというらしい。

まさか、家が無くなったその日に新しい家が出来るとは、何たる僥倖。アイン様、このご恩は決して忘れません。

恐らく、俺の面倒はアインが見ることになるだろうし、なるべくアインの近くにいることにしよう。


次の日から午前中は一緒に授業を受け、午後は街へ奉仕活動へ赴くようになった。まぁ、これまでの生活となんら変わらないんだけどね。むしろ、教室の中で授業を受けられるようになった事で、より多くの異世界情報を得られる環境になった。ありがたやーありがたや。



そうして、三年と二ヶ月の月日が流れた。


この三年で、猫語をマスターした俺は、全ての原因となった猫を探し出し、問い詰め、暴力と言う名の説得を経て、無事人間へと戻った。


……なんてことは一切なく、今日も変わらず教会を拠点にのほほんと暮らしている。最近は、逆にどんどん猫に近づいているんじゃないか。という疑念が晴れない。

あ、勿論、変わったこともある。三年かかったが、異世界語をマスターしたのは大きな進歩だ。

まぁ、マスターしたと言っても、相変わらず聞く専門で、俺がしゃべれるのはみゃーぐらいなんだが、それでも情報を仕入れられるようになったのは本当に大きい。

最近は折を見てはアインと別行動をとり、人間に戻るため、まずは動物と意思疎通を測る手段を探している。とはいえ、ここ3年ずっと一緒に居た所為か、傍を離れるとアインが凄く心配するため、余り長い時間は離れられないんだけども。今も午後の奉仕活動を終え、一緒に帰路についているところだ。


「あ、アイン!今帰り?急がなくて大丈夫?」


後ろから声をかけてきたのは、孤児仲間のエル、栗毛色のくせっけに碧眼をもつ女の子で、同い年という事あってアインと仲が良い。


「んー。太陽があの位置だし、まだ大丈夫じゃないー?」

「そっか、アハトが妙に騒ぎ立てるから、こっちまで気が急いちゃったよ。」

「それは仕方ないよー、今日はアハトが主役だからねー。」

「ま、それもそうか。」


たわいも無い話をしつつ、エルも一緒に帰路につく。女三人集まれば姦しいという言葉があるが、二人でも騒がしいのは変わらないようだ。しかし、同じ家に住んでいるのによく話すことが尽きないなと感心する。


教会にたどり着くとシスターも孤児達も何やら慌しく準備をしている。

アインとエルもそれに加わり動き出したので、俺は邪魔にならないよう、窓枠に飛び乗った。こういうときに何も手伝えないのはちょっと寂しい。この世界でも猫の手を借りる人にめぐり合えていない。

やがて、夕刻の鐘が鳴り響き、教会の住人たちが食卓やってきた。皆が席へついたのを確認すると、この教会唯一の神官が立ち上がった。


「皆、お疲れ様、明日は授齢祭、皆がひとつづつ齢をとって、アハトとフュンフが旅立つ日だ。今晩はアハトとフュンフのお別れ会、それから一日早いが鑑定の儀を行うとしよう。アハト、フュンフ!」

「「はい」」


呼ばれて二人の男の子アハトとフュンフが立ち上がった。


「俺がここに来たのは6歳の頃だったから、もう8年か。鑑定の儀の結果次第だが、俺は冒険者として生きていこうと思う。今までありがとう。」

「今日まで楽しくやってこれたのは、皆のお陰だと思ってます。僕が二番目に後輩なのに、先に出て行くのは変な気がするけど、僕は、手先が器用だから、何かの職人の道に進めたらいいなって思ってます。本当にありがとうございました。」


二人の男の子の礼の共に拍手が起こり、それが静まると三人は再度椅子に座った。

そこから、神に感謝を捧げ、やっと食事に手をつけられる。去年一昨年を思い出し、俺もお祈りを終わるのを待って食べ始めた。

ちなみに、俺の席はアインの隣敷かれたマットの上である。

いつもは食器の音がかすかに聞こえるくらい静かな食卓なのだが、今日に限っては騒いでも怒られない。なにせ、アハトとフュンフは今日でお別れなのだ。死別するわけではないけど、毎日会えるわけじゃない。話す事は尽きないだろう。


この孤児院(教会)は、12人の孤児と3人の修道女、1人の神官で形成されている。

修道女と神官の入れ替えがあるかは不明だが、孤児に関しては、13歳までしか在籍することができない。

毎年、授零祭を期に14歳になった少年少女が孤児院を去り、数年のうちに去ったのと同じ数の孤児を補充するシステムになっている。14歳というのはこの世界において、中人や、半人前と言われる。

冒険者や職人等、14歳から見習いとして入り、大抵が2年~5年をかけて半人前を卒業する。その業界の先輩から一人前と認められれば大人の仲間入りというわけだ。


どの業界に入るのか、それは恩恵(ギフト)によって決まる。恩恵(ギフト)とは、持って生まれた才能のようなもので、この世界の神アルガイアにより授かると言われている。

どんな恩恵(ギフト)を持って生まれてくるかを選ぶことは出来ないが、どんな恩恵(ギフト)を持っているかを確認する術はある。それが鑑定の儀となる。ただし、恩恵(ギフト)が発現していないと、鑑定の儀で確認することが出来ない。

植物に例えると判りやすいかもしれない。畑に適当に種を蒔いたとすると、それが芽吹くまではどんな植物か判らない。その『芽吹く』というのが『恩恵(ギフト)が発現する』という現象で、それをどんな植物か鑑定するのが鑑定の儀である。

そして、恩恵(ギフト)が発現するのは14歳~18歳という統計があるため、この世界の住民は14歳になると挙って鑑定の儀を受け、その恩恵(ギフト)にあった業界に入るのである。


食事が終わり、アハトとフュンフは、神父に連れられて礼拝堂へと入っていった。

そこで鑑定の儀を行うらしい。鑑定の儀は神の意思を確認するための神聖な儀式であるため、本人とその家族しか立会いを認められないとの事で、俺は未だどういった儀式を行うのか詳しく知らない。

猫故に忍び込むことは可能だと思うが、アインの責任問題になったら困るので、アインが14歳を迎えるまでは楽しみに待つことにしている。


その夜、部屋に戻ったアインは俺を抱きかかえてベッドに入った。


「ねー、私の恩恵(ギフト)って何かなー?」

「(んー?)にゃー?」

「私ねー、冒険者になりたいんだー。だから、『剣』とか『弓』とか、冒険者向きの恩恵(ギフト)だと嬉しいなー。」

「(え?アインが冒険者?)にゃ?にゃー。」

「えー?、『アインみたいなのんびり屋さんに冒険者なんて無理』ってー?……あはは、私もそう思うー。でもね、どうしても冒険者になりたいの。冒険者になって、お父さんとお母さんを探しに行くのー。」

「(アイン……)にゃー……。」

「その時、カイは私についてきてくれる?」

「(もちろん!)にゃ!」

「そっか、ありがとねー。私、頑張るからねー。」


そう言って目を閉じたアインからは、すぐに寝息が聞こえてくる。

確か、アインは孤児院に居る頃からの記憶しかなく、両親の事は全くわからないんだったか。どういう経緯でこの孤児院に流れ着いたかも不明らしい。俺なら出自が気になってシスターにしつこく聞くような気がするけど、アインはそういうことをしようとしない。もしかすると過去に聞いたけど、思うような成果が獲られなかったのかもしれない。

とすると、両親探しはいきなり暗礁に乗り上げているようなものだ。砂漠で一滴の水を探す無謀さを感じる。でも、きっとそれでもこの娘は諦めないだろう。のんびり屋さんだが、一度決めた事は頑なに譲ろうとしない。俺を飼う時もそうだった。

だとしたら、俺も一緒に探しに行こう。幸い俺にも宛の無い探し物がある。出来ることは少ないが、何か力になれるかもしれない。

猫「やっと言葉が判るようになったぜー。」

兎「猫の言葉はわかんないけどねー。」

猫「……。」

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