第四話
第四話
「おっ、見えてきたぞ。あれがわしの家じゃ。」
「え?家なんてどこにも見えませんよ?」
「お前の目は節穴か?ほれ、あそこの赤い屋根が重なったようなやつじゃ。」
「あれ、家なの!?」
ハクが指さす先には、首を真上までもたげても見切れてしまうほどの巨大な楼閣がそびえ立っていた。俺たちが楼閣に入るのと同時に、向かい側の入り口からも二人組の男が談笑しながら入ってきた。二人ともカク同様に黄色の布を着用しており、片方は布で口元を隠した小柄の筋肉質な男で、もう片方は布をねじり鉢巻きのようにして頭に巻いているひょろっとした感じの男だ。相手もこちらに気が付いたようで、小柄な方の男が口火を切った。
「おう、兄者に白玉様じゃねえか!そっちの優男は見ねえ顔だな!迷子になっちまったか!?がっはっは!!」
「こらリョウ、お客様に失礼だろう。この方はお嬢様がお連れした珀磨様だ。」
「初めまして。珀磨といいます。」
「あらぁ、お嬢が若い男を連れてくるなんて初めてじゃない?お嬢ももうそんな年になったのかしらねぇ。」
「そ、そんなものではない!わしは珀磨をここで―――」
「あらあら!もう名前で呼び合ってるのねぇ!これは早く南華様にご報告しなくちゃ!」
そう言うと、ひょろっとした方改めオネエの方は、部屋の隅にある赤塗の階段を軽い足取りで登り、それを追うハクも裾を捲りながらドタドタと上の階へと消えていった。
「いやはや、お恥ずかしいところをお見せしました。こっちにいるのがリョウ、今お嬢様が追いかけているのがホウと言い、二人とも私の弟です。」
「そういうことだ、詳しいことはあいつらと合流してから話そうぜ。」
「そうだな。私たちも上に行―――」
カクのセリフを遮るように、俺の目の前に上に行っていた二人が瓦礫もろとも落ちてきた。ずいぶんと高い所から落ちてきたようだが、元気に取っ組み合っているところを見ると流石は仙人といったところか。
「これこれ、二人ともお止めなさい。お客様の前ですよ。」
この規模の喧嘩はここではよくあることなのだろうか。驚きで固まっている俺とは対照的に、カクとリョウはやれやれといった感じで二人を引きはがす。
「ごめんなさいってば。お客さんが訪ねてくるなんて久しぶりだったから、少し調子に乗っちゃっただけよ~。」
「ほら、ホウもこう言ってることですし、お嬢様もお気を静めてください!」
「むう、仕方ないの。わしは心が広いからな。次はないと思えよ。」
カクの腕の中で、釣られたばかりの魚の如く暴れていたハクも、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。それから間を置かずに、先ほどハク達が上って行った階段から、今度は白髪を無造作に伸ばしたいかにも仙人といった風貌の老人が慌てた様子で飛び降りてきた。
「どうした!?敵襲か!?」
老人は俺を見るなり眉をひそめ、戦国武将よろしく声を張り上げた。
「貴様、何者だ!わしを南華と知っての狼藉か!」
南華という名は、カク達の会話の端々に出てきたハクの父親の名だ。彼は、どうやら俺を強盗か何かと勘違いしているらしい。親子というには少し歳が離れすぎているような気がするが、口調や慌ただしさハクと通じるものがある。
「待ってくだされ父上。この者はわしが連れて来たのじゃ。」
俺が口を開くより先に、ハクが俺の潔白を示してくれた。その言葉を受け、南華仙人の表情が和らぐ。
「む、そうかそうか。それは失礼した。」
「そ、娘さんを僕に下さい!ってね。」
「「殺す。」」
この後、カク達の説得でハク親子を落ち着かせるまで、小一時間かかった。